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「うるせぇな。お前が言い出したんだろうが」
「お前とか言わないでよ。そんなんだから、ろくに相手にもされないんでしょ」
「よくわかんねぇことで傷をえぐるな。やり返すぞ」
「ひどーい。傷心中なのに!」
うっと胸をおさえると、小山内がやれやれと呆れたように「うざすぎ」と吐き捨てるように言った。ひどい。うざすぎなのはお互いさまでしょうが。
「わざわざ見るなよ」
「じゃあ何で小山内は残ってんのよ。その眼鏡折ってやろうか」
「折るなよ。別に俺だっていたくて残ってるわけじゃねぇの。一緒に帰ろうって言われたんだよ」
眼鏡の奥の瞳と視線がぶつからなかった。そりゃ待っちゃうわけか。
「うわー、かわいそう。人のこと待たせて何やってんだか。もしかして、今日もう告白だったりして?」
「今日はないだろ」
「どうかなあ」
お互いの好きな人があとどれくらいで結ばれるのか、賭けをしている。あたしはあと3日で、小山内はあと1週間と見ているらしい。そんなに長くかかるかな。
めでたく結ばれたら、晴れてあたしたちは仲良く失恋組だ。
好きな人を目で追いかけるうちに仲間を見つけて、あたしから話しかけた。小山内は認めなかったものの、勝手にあたしが相談相手になってほしいと頼み込んだ。その後、打ち明けてくれた小山内はほっとしたように微笑んで言った。
――『話せたのが梨本で良かった』
いいやつだと思う。報われてほしいと、きっと誰より、本人よりも、あたしが願っている。それと同時に叶うことはないことも知っていた。
もうほとんどあの2人が付き合うのは確定のため、こうして傷を見せ合っている。
癒すことはないし、癒されることもないとわかっているから、見せるだけ。誰かに今思っていることを素直に吐露できるのは、いくらか胸のもやもやが晴れる気がした。それは小山内も同じだといい。
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