サクサクでしっとり

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「忘れてそうだし、もう帰るか」 「え、じゃあ、ちょっと下行って約束忘れんなって言ってきてよ。そしたら、あたしは(しのぶ)と一緒に帰りたい」 「やだよ。邪魔したくねぇし」  まだまだとばかりに茂る葉が邪魔をして、2人の表情が見えなくなってしまった。何であんなところで話してるのかな。  あたしは手を伸ばしてそっと窓を閉める。何もわざわざ中庭じゃなくたって、校内を探せばいくらだって良さそうな場所はある。 「結局のとこ何話してんだろうね、あれ」 「映画誘うって話は聞いたから、それじゃね?」 「小山内知ってたのね。告白はまだ先かあ」 「だろうな」 「なーんだ。にしても。教室だとあたしたちがいるから誘いづらかった、まではわかるけど図書室行くとか、寄り道するとかあったじゃんね」 「わざとここにいて邪魔したくせによく言うわ」  てへ、とかわいこぶったところで真っ黒なあたしは隠せない。小山内にはやっぱバレてたか。邪魔したところで進展を止められるわけでもない。  あたしのしてることは、ただ虚しさを広げるだけの無意味なものだ。ほんと不毛。  忍をこの気温で外に連れ出すなんて思いやりに欠けている。もうちょっと考えてほしい。なんて、忍は微塵も思わないんだろうなあ。  あーあ。ため息を吐きながら、机に突っ伏すあたしに「自己嫌悪はよそでやれ」と小山内は頭を叩いてきた。痛くはない。 「付き合わなければいいのに」 「それは無理だな」 「告白できないヘタレでいてほしい」 「それも無理だな」 「何で小山内が答えるのよ。ここはそうだなってとこでしょ」 「俺は好きな人に幸せでいてほしいの」  穏やかな水面のように落ち着いた声色に震えが混じっているような気がして、じっと見つめる。ほんの少しだけ、瞳が揺れたかと思えばまつ毛を伏せてしまった。  小山内がそんなんだから、あたしがいつも泣きたくなるんじゃない。鼻の奥がツンとしてあたしは口をつぐむ。小山内は眼鏡の位置を直して、小さく笑った。
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