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校舎を出て歩いていると、髪の毛をなびかせる優しい秋の風。ちょうどいい散歩日和だ。こんな気温の中なら、歩きたくなる気持ちもわかる。
忍をこの気温で外に連れ出すなんて、そう思ったあたしが間違ってた。好きな人と一緒に歩きたくなる。わかったところで、どうにもならない気持ちが募るだけ。
さっき自分が思ったことがブーメランになって返ってきた。刺さって抜けそうにないから、そのままにしておくことにする。
「ついてってるのバレたら告白やめるかな」
「絶対にやめろよ。ついていくのはいいけど、バレるな」
「ついていくのはいいんだ」
「何だっけ、ほら。失恋はしておかないと後に残るんだろ?」
いつの日か、あたしが小山内に言った言葉。隣に並ぶ小山内の横顔が凛々しく見えた。
空も太陽もあの2人を応援しているとばかりにまぶしい。振り向かれたらすぐにバレそうだ。
小山内はシャツを脱いで、中に着ていたTシャツだけになった。少しでも目立たないようにするつもりらしい。あたしも真似をして、リュックからバケットハットを取り出してかぶる。
よし、と気合を入れて歩き始める。ワンピースのすそがひらひらと揺れた。忍に見せるためにわざわざ学校に着てきたのに。かわいいねって言われても、満たされるものはなかった。
「小山内はさあ」
「ん?」
「告白する気、ないの?」
「ない。地球が明日滅びるって言われてもない」
またまた、とひそひそと話して横を小突く。
「ほんとに?」
「ない」
「今日地球が滅びても?」
「絶対にない」
「告白しようと思ったことはあるでしょ?」
「思ったこともない」
同じような質問にも関わらず、小山内は珍しく根気よく答えてくれた。
よっぽど強固な決意らしい。あたしはふらっと言ってしまおうかと思ったことがある。自分の気持ちをぶつけて、楽になろうとした。
どこまでも相手が最優先で大切なんだろう。たまに自分本位が顔を出すあたしとはえらい違いだ。
「いいやつだから、幸せになってほしいよ」
「残酷なこと言うやつだなお前」
小山内は嘲笑じみた笑いを漏らした。
白線の上を歩く小山内は、自然と車道側を歩いてくれていた。歩くのが早いと思っていたのに気づけばあたしに歩幅を合わせてくれている。
いいやつだ。この優しさに気づけないなんて、もったいない。そのくらいは気づいてるんだろうか。
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