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「小山内を好きにならないなんて見る目がないよね」
「梨本好きになってないじゃん」
「人としては好きだよ。恋愛にならないだけ。あたしは見る目あるでしょ?」
「まあ、ある……のか?」
「自信もって言ってよ」
少し離れた先にいる2人から目は離さない。忍が自転車を押していて、時折弾けたような笑顔を見せる。
好きな人に見せる顔だよなあ。あたしと話していても比較的よく笑ってくれてる気がするけど、違いがはっきりわかる。
こそこそと後を追いかけて行くと、高架下の川岸に腰を下ろす2人が見えた。映画の原作小説の話をしているところを見ると、無事に映画は誘えたらしい。
ファミレスとかカラオケに入らないでくれて助かった。おかげで様子がよく伺える。何を言っているかわかる位置に隠れることもできた。
「好きです。おれと付き合ってください!」
会話が途切れたその瞬間、今だとばかりに勢いのある真面目な告白。そこまでの距離にはいないのに息遣いまで聞こえてきそうな緊張感だった。小山内が息を呑む。
あたしは喉元まで出かかった「うわ」を飲み飲んで、隣と目を合わせる。一瞬目を細めた小山内は川の向こうを見つめて、2人からは目をそらしてしまった。触れた肩から伝わるわずかな震えに、あたしの胸も締め付けられるように痛んだ。
今ある痛みは、同じであって違うもの。それでも、手に取るようにわかる。
とうとうこの日が来てしまった。
あたしは最後まで見届けてやろうと意気込んだものの、川がきらきらと反射して2人を直視できなくなってしまった。
頬を染めて、お互いを見つめる2人なんてこれ以上見たくない。見えなくてちょうどよかったのかもしれない。奥歯を噛みしめて息を吐くあたしの肩を、小山内がぽんぽんと優しく叩いてくれた。
川面を撫でていた風がこちらに吹いて、あたしの長い髪の毛をさらっていく。ロングが似合うと言われて、大変なのに頑張って伸ばした髪。整えようとわざと大きく頭を振った。
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