サクサクでしっとり

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サクサクでしっとり

 実らないとわかっている片想いは、不毛でしかない。  それなのに、好きにならなきゃよかったとも、好きになる前に戻りたいとも思わないのだから不思議だ。  がらんとした教室から、あたしは窓の向こうを眺める。中庭から見上げるその人は、ふわりと柔らかく笑ってあたしに手を振ってくれた。自然と頬が緩んで、あたしも手を振り返す。  たったそれだけで、この世界が満たされていく。それだけでいい、はずなのに。  隣の人から会釈をされて、うっかり笑顔が引きつってしまった。好きな人の好きな人のことを、あたしは好きになれない。大事にもできない。だけど、嫌いにもなれなかった。  一旦落ち着こうと窓から離れて、あたしはどかっと乱暴に椅子に腰を下ろす。窓から入り込んだ風は少しだけ肌寒く感じた。 「あー、もう。ぜんっぜん意味わかんない。何で隣にいるわけ!?」 「梨本(なしもと)、顔酷いことになってる」  苦笑いを浮かべる小山内(おさない)の机に肘を置いて「わかってる」と返した。だけど、口は止められない。 「あれの何がいいんだろうねぇ」  ベンチに向かって歩きながら語らう男女2人。あたしがこの目に映したいのは1人なのに、残念ながら余計なのが視界に入ってしまう。  治りかけた傷を引っかかれるような痛み。かさぶたができる前にまた新しい傷が増えていく。 「知らん。俺も逆に聞きたい。相手のどこを好きになったのか」 「聞いたことないの? えー、大親友のくせに?」  あたしは茶化すように笑って、わざとらしいため息を吐く。
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