序 予感

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風の匂いは濃く、空には大きな入道雲が浮かぶ。参道の石畳には陽炎が立ち、二匹の狛犬たちも連日続く猛暑のせいで心なしかげんなりした顔だ。鎮守の森に住んでいる蝉たちの大合唱は今朝から途切れることがなく響き渡る。 少し前から夏休みが始まって、神修に本格的な夏がやってきた。 「十分休憩! みんなしっかり水分取ってね」 神楽部(かぐらぶ)部長の聖仁(せいじん)さんが手を叩た。疲れ果てた声ではーいと返した部員たちは、バタバタとその場に座り込んでいく。 私も壁際に座り込むと一気に水筒のお茶を煽った。 神修の建物はどれも古くクーラーなんて最新の設備はない。かろうじてホームルーム教室には扇風機が二台あるけれど、特別科目の教室は窓を開ける事でしか暑さを凌ぐ事はできなかった。 神楽部の活動場所である稽古場も、朝から全ての窓や扉を全開にしているけれど滝のような汗は止まらない。それでも誰一人倒れないのは、部長が皆の体調を注意深く気にかけてくれているからだろう。 「巫寿(みこと)さーん…」 「あつーい…」 そんな声と共に私の両サイドにどさどさと誰かが座り込む。そのまま私の肩にもたれ掛かる二人に小さく笑った。 「引っ付いてたら余計暑くなるよ」 同じ神楽部に所属するひとつ年下の盛福(せいふく)ちゃんに、中等部三年の玉珠(ぎょくじゅ)ちゃんだ。 「こんなに暑いところで稽古させるなんて、部長たちのこと嫌いになりそうです」 「アンタは優しいよ玉珠。私はこの後厩舎から藁盗んで、事務員さんから金槌借りようとしてるのに」 「はっ! それ名案……!」
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