壱 恋する乙女

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その日の放課後、部活が始まる少し前に稽古場へやってきた神楽部(かぐらぶ)顧問の富宇(ふう)先生が私と三年生の先輩を一人呼びつけた。 その先輩とは部活で雑談をする程度で、深い関わりがある訳でもない。もちろん二人揃って呼び出されるような心当たりはない。 物静かなタイプの先輩は、私の隣を歩きながら少し不安げな顔で眉根を寄せた。 「僕、何かしたっけ……巫寿ちゃんは心当たりある?」 「私もありま……せん」 普段なら即答できるのだけれど、神修へ入学してからはヤンチャなクラスメイト達に巻き込まれて一緒に罰則を喰らうことが増えた。 少し前まで朝の清掃が稽古場の担当だったのだけれど、清掃をサボって雑巾サッカーをしていた慶賀くん達が神棚に雑巾を乗せて榊の葉が数枚落ちたことがあった。 葉っぱが落ちるのは自然な事だし綺麗に片付けたからバレていないと思ったけれど、もしかしたら私が呼び出されたのはその件かもしれない。 入口のそばで待っていた富宇先生に駆け寄ると「廊下で話しましょう」と外へ出るように促される。 ドキドキしながら廊下へ出ると、聖仁さんと瑞祥さんの二人が立っていて、富宇先生は二人に歩み寄る。 富宇先生の後ろをついてきた私たちに気付いた二人が「お」と小さく手を挙げた。 「雌兎役は巫寿だとは思ってたけど、雄兎役は天叡(てんえい)なのか!」 「よろしくね、二人とも」
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