壱 恋する乙女

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観月祭の話題が出始めたということは、もちろん学校内も"例の伝説"の話題で持ち切りになる。 夕飯を食べながら五分に一回は他学年の女の子に声をかけられ席を立つ嘉正くんに、皆はにやにやと悪い笑みを浮かべる。 疲れたように息を吐いて戻ってきた嘉正くんに「モテる男は辛いねぇ」と慶賀くんが囃し立てた。 「笑い事じゃないよ。目の前で女の子に泣かれた時の俺の気持ち分かる?」 「うわッ、なんかその発言超ムカつくんだけど!」 「慶賀もモテればいずれ分かるよ」 「はァァ!?」 なんだたコノヤロー!と立ち上がった慶賀くんを無視してお味噌汁を啜る。 二人のやり取りにくすくすと笑った。 観月祭にはこんな伝説がある。 "観月祭の日に配られるススキを手首に括り付けて好きな人と手を握り、庭園を流れる川に浮かぶ月影にその手を浸すとその二人は永遠に結ばれる" この噂は月兎の舞に由来しているのだと、去年先輩二人から教えてもらった。月兎の舞を舞った初代の学生ふたりが卒業後にお付き合いして結婚したらしく、それが関係しているらしい。 川に手をつけるというのは、舞が始まる前の清めの儀を模しているのだとか。 だから毎年二学期の頭には、観月祭に誰を誘うのかという話で持ち切りになる。
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