壱 恋する乙女

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「そもそも観月祭は夜中だし、先生に見つかればもれなく罰則なんだよ。そんな危険犯してまで誰かと付き合いたいとは思わないなぁ」 「嘉正って見た目通りの現実主義者だよね。彼女欲しくないの?」 「そりゃ人並みに欲しいけど、どうしても同級生とか下級生って妹に見えちゃうというか」 確か嘉正くんって、告白されても毎回「ごめん妹にしか見えない」と断っているんだっけ。結構残酷な断り文句だと思うのは私だけだろうか。 「あれ? そういや泰紀、今年はまだ一人しか声かけられてなくない?」 嘉正くんの質問に「んぁー」と曖昧な返事をする。 同級生たちの中で嘉正くんの次に人気があるのは泰紀くんだ。去年も数人の女の子から声をかけられていた。 一日に一人は声をかけに来ていたけれど、三日前を最後にピタリと誰も来なくなった。 「皆も気付いたんだろ、泰紀はただの筋肉バカだって」 「うるせー」 いつもなら喧嘩に発展する慶賀くんの軽口をスルーした。驚いた私達は顔を見合わせる。 何も言い返さず反応もせず、もそもそと焼き鮭を咀嚼する泰紀くん。 お前熱でもあんのか?と慶賀くんが心配そうに手を伸ばしたその時。 「泰紀さん……ッ!」 可愛らしい声が泰紀くんの名前を呼んで、みんなして振り返った。 ショートカットで頬のそばかすが可愛らしい溌剌とした女の子だった。紺色の制服なので中等部の子だ。
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