弐 それぞれの夜

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「いい加減戻るぞ」 まだ少し拗ねた声の恵衣くんが立ち上がり、慌ててそれに続く。 その時、制服のポッケに入れていたチョコモナカの袋がひらりと落ちた。風に流されたそれは目の前の川に落ちてゆっくりと流れていく。 「あっ」 「バカッ……!」 動き出したのはほぼ同じタイミングだった。 月明かりで照らされた水面が真珠が飛び散るように跳ねた。私たちの手は、ほぼ同時に水の中でアイスの袋を掴む。ハッと顔を上げる。驚いた表情の恵衣くんと目が合った。 川のせせらぎが私たちの間を流れていく。何故か視線を逸らすことが出来ない。 水は冷たいはずなのに、僅かに触れる恵衣の手の小指は燃えるように熱かった。 突然手首を掴まれた。強く引っ張られて立ち上がると、川に浸かってしまったせいで袖からザバーッと水が滴る。恵衣くんも同じくびしょ濡れ姿で、というかむしろ私よりも濡れている。 顔からサァッと血の気が引いていく。 「あ、あの……ごめん……」 恵衣くんは黙って目を閉じ天を仰ぐ。 「……もういい」 絶対に良くないやつだ。それ絶対に良くないやつだ。 無言で川岸に上がった恵衣くんを追いかける。 「あの、本当にごめん」 「だからいいつってんだろ」 顔を真っ赤にした恵衣くんは大股で歩いていく。 絶対怒ってる。あんなに顔を真っ赤にしてるんだもん、間違いなく怒り狂ってる。
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