1 箱庭の箱①

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1 箱庭の箱①

 パピラ~ピラプララン~♪  ファンファファファー―――ン♪  ノー天気なメロディと共に、ファンファーレが鳴り響く。  マリサの目の前に、リスに天使の羽がついたような、二対の白いもふもふが唐突に現れて、ほわほわと舞いながらラッパや笛を吹き鳴らしはじめる。 (へっ?)  右肘を突き出してのけぞったマリサは、バランスを崩して後ろに倒れたが、次の瞬間、ふかふかのシルバーホワイトの毛並みに埋もれていた。 「ワフッ!」  大型犬のゆうに二倍はありそうな犬が、マリサの後ろに横たわって、尻尾をわさわさ振っている。 「まあシロリン、ありがとう」  わしゃわしゃなでくると、べろべろその手を舐めてくる。 (ううっ、かわいいやつめ)  シロリン(♂)は巨大だがまだ子犬だ。  シルバーグレイに、ブルーとゴールドが混ざり合った神秘的かつつぶらな瞳と、三角の耳はどちらも緩く垂れている。  少し釣り目がちのマリサの目尻は、シロリンを相手にする度、だらしなく垂れ下がるのだった。  すると、青空に色鮮やかな紙吹雪が舞い上がった。 「ワフワフワフッ!」  ぱふん!  巨大な正方形のプレゼントボックスが、目の前の[ただの荒れ地]に出現した。 『おめでとう! 10000ポイント達成!』 と、文字がきらびやかに点滅した。 「えっ、えっ、えっ?」  立ちあがろうとして足をもつれさせたマリサは、再びシロリンに身体を受け止められ、口をアワアワさせていた。  完全にパニックだ。  目の前で展開される出来事に、全く思考が追いつかない。  黄緑色の大きなリボンを乗せた、一辺が五メートル以上はありそうなプレゼントボックスを残し、白もふリスもどきと、荒れ地に落ちたはずの無数の紙吹雪が跡形もなく消えた。  すっくと立ち上がって、マリサはくしゃくしゃの笑顔をシロリンに向ける。 「シロリン、わたし達、やったのね! 明日辺りかなって思ってたのに、もう一万ポイント達成だって、わーい、わーい!」 「ワフッ!」  マリサが跳ねていると、シロリンも真似してジャンプする。 「びっくりしたー、不意打ちなんだもん。しかし、なんの前触れもなく起こるんだねぇ……って、当たり前か」  じわじわと嬉しさが身体中に満ちてきた。 「ありがとうね、こんなに早く達成できたのは、シロリンのおかげだよ! ひゃっほーいー!」  この、妙ちくりんな世界に突如放り込まれてから今日で一週間目だった。  マリサは、潤んだ瞳でしみじみとプレゼントボックスを見つめる。  小さいけれど、『ログハウス風の家』という、マイホームを手に入れたのだ。  自らに、「腹をくくるんだ」と、言い聞かせる。  これからは、自分の中の頭でっかちな優等生を封印しなければならないだろう。一週間、この荒れ果てた場所で生活をして気がついたのだ。  いいこちゃんでは生きていけないのだと。  とはいえ一人と一匹のサバイバル生活に、知恵と機転は必要だ。  大切なのは一人と一匹の心身の健康と、これまで培ってきた、生きていくために必要なノウハウだけだ。  この箱庭ゲームと思しき世界の中で、己の理想通りの、快適に過ごすための努力をするのだ。  マリサは、一人と一匹きりで、石の転がる痩せた土地の本格的な開拓を、改めて始めるぞと心に誓うのだった。
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