燻る、シガー

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 俺と隣同士のデスクで、宵さんが細い指先を駆使して軽やかにキーボードを叩く。パソコンの画面に反射する隈が彼女の寝不足を物語っていた。 「京極くん、キッチン家電シリーズの進捗は?」 「無事、契約完了して第一陣の商品が今月末に国内到着予定ですよ。今は通関手続きの最終確認に入ってて物流のスケジュールも確定しました」 「輸送コスト、予想より高いね」    見積もりに目を通す宵さんの横顔にうっかり見惚れそうになったが、仕事ができないと思われたくないので自分に喝を入れて上昇要因を説明する。 「燃料価格の高騰が痛いっすね」 「あー、そこは仕方ない。輸送業者を複数利用して対応しちゃお。量販店との交渉は?」 「家電量販店5社と販売契約を締結させました」 「うんうん、良き良き。じゃあ懸念点は、国内の在庫管理くらいかな。市場に出てから品切れは困るもんね」  あれだけ眠そうな顔で出社して、よく朝一でこんなに頭が回る。  パンツスタイルのスーツを着こなす宵さんは、どうも話す間やトーンが緩い。身長も低く、覇気のない目や半開きになりがちな口元も相俟って可愛いの塊だ。  しかし、侮ってはいけない。俺より5歳上の宵さんは総合職で入社し、支社の営業成績は常に上位。部長や後輩からの信頼も厚い優秀な人。  進捗を報告し終えた俺は、宵さんの隣のデスクに腰を下ろしてパソコンの画面と向きあった──。
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