燻る、シガー

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 俺は頭が良いはずなのに、宵さんのことになると途端にIQがガクンと下がる。煩悩まみれで必死に仕事してるから、普通の人の5倍は疲労が嵩むのだ。  周りが決算準備と在庫調整、仕入れ交渉やらなんやらに奔走する中、俺も例に漏れず駆け回る。  最近は忙しすぎて、喫煙所で会うことすらできてないから可笑しくなりそうだ。宵さんを摂取しないと狂う。 「あ、京極くんいた! 今日のクライアントへの挨拶は私もついて行くから車乗っけて〜」 「えっ」 「なんで驚いてるの? 私が引き継いだとこだし、流石に顔出すよ」  可哀想な俺に、天は味方したらしい。  車内という密室で2人きりになれるチャンス。しかも今日はお互いに直帰だから、あわよくばご飯にでも誘って彼氏と早急に別れさせたいところ。  報告書や散乱した資料を軽くまとめ、部長に挨拶してから宵さんと車に乗り込んだ。 「京極くんの車、京極くんの匂いがするね」 「そ、それは、俺が毎日乗ってる車ですから……」 「ふぅん」  なにが、ふぅん?  マフラーに顔を埋めた宵さんが、ふいっと窓の外に視線を逸らしてしまう。寒がりだからか顔の下半分をすっぽりと隠していて、非常に可愛い。  俺を振り回すのも大概にしてください、マジで。
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