燻る、シガー

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 俺はハンドルを握りながら、過去一安全運転を心掛けた。そして恙無くクライアントへの挨拶を終え、トントン拍子で居酒屋に行く流れに。  頭の中でシミュレーションをしていた俺は、こうも呆気なく宵さんと飲みに来れてることに、感動を通り越して困惑していた。 「ビールやだな。レモンサワーがいい」 「なんか、食べたいもんあります?」 「んー……ぼんじりとねぎま、あと揚げだし豆腐食べたいかな」 「りょーかいです」  こじんまりとした居酒屋のカウンター席で、横並びになりながら俺は動悸を抑える。  ちらりと横を盗み見るも、やはり宵さん。好きな人との初のサシ飲みに、心臓がばっこんばっこんと暴れてしまった。  肩につかない髪を、耳にかける仕草に見惚れる。 「……宵さん、髪の長さずっとそのくらいっすね」 「…………宵?」  復唱されて、俺は自分の発言に青ざめた。  いつも心の中で、宵さん、と読んでいるから、本人を目の前にしてそう呼んでしまった。やばい。 「────! あ! いや! そのっ!」  慌てて「つい、口が滑って」とダサい言い訳を繰り広げる俺は顔を正面に向けて、彼女の視線から逃れるように縮こまる。  しかし、耳に届いたのは可愛い笑い声。 「ふはは、別にいいよー」 「へ?」 「私も暁くんって呼ぼうかな。これならおあいこ」 「……っ」  なんだろう。命日かもしれない。
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