燻る、シガー

8/8
前へ
/8ページ
次へ
 自身の髪をくるりと指に巻き付けた彼女が、口をとがらせて短い理由を話していく。 「髪が長いとケアも面倒でしょ? 営業は見た目にも気を使えって言われるし、じゃあ短ければラクかもなって思って、ずっとこの長さ」 「な、るほど」 「そうだ、聞いてよ! そろそろ主任にさせられそうなの! 最悪だよぉ……永遠に平がいいのに……」 「いや、宵さんが平のポストにいて昇進してない方が不思議なんすよ」  めんどくさがりなのは以前から承知してたけど、ここまでくると私生活も心配になるな。  昇進も彼女の仕事ぶりからして当然だし、今まで平でいたことが驚きなのに、本人は相当嫌らしく豪快にレモンサワーを飲んで「うー!」と可愛く唸ってる。  あれ? 宵さんお酒強いっけ? 「あ! 暁くんの髪型は、センター分け? って言うんだっけ? 似合っててかっこいいよねぇ」 「かっこいいってことは、タイプってことっすか?」 「んー? んー……」  思い出せば、歓迎会やら送別会やら、よくある飲み会で宵さんはちびちびとしか酒を飲んでいなかった。  必ず一次会で帰っていたし、多分弱い。  てことは、攻め時。 「宵さん、口開けて。あーん」 「あむ」 「はは、なにこれ可愛い」 「お豆腐おいしい」 「食べるのも面倒なら、全部俺がしてあげますよ」 「やった〜……」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

151人が本棚に入れています
本棚に追加