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小説家
「清水くんっ! どうだった?私の小説!!」
登校してすぐに清水くんの席へ駆け寄った。
あれから、帰りのホームルームが終わった後に
清水くんに小説ノートを渡すのが日課になっていた。
「あぁ、『フラワーマスター』ね」
「ち、ちょっとタイトル言わないでよ!
恥ずかしいじゃんっ」
聞こえてはいないかとハラハラしながら
辺りを見渡すがみんな気づいていないようだ。
良かった。
「まず、ここ。第二章の中盤。主人公の一人称
間違ってるんだけど。小説家としてあり得ない
失態だよ」
清水くんは呆れたようにため息をつく。
「えっ、嘘!?」
慌ててノートを覗き込むと
主人公の一人称が『あたし』のはずが
『わたし』になっていた。
「ぎゃぁぁぁ!! 間違えてたぁっ
てか小説家じゃないんだけどね。」
「えっ?」
清水くんはわたしを見上げ、
キョトンとした表情を浮かべていた。
「小説家、ならないの?」
え。
いや、まず小説家になるなんて……。
「考えたことなかったよ
だって、あたしは趣味で物語を
書いてただけなんだもん。」
「そっか……。でも、永野には素質あると思うよ」
「えっ、ほんと?」
「うん。永野が小説家になったら俺絶対本買うよ」
いつもより輝いている瞳がわたしを貫いた。
……小説家。
小説家になったら、清水くんにも、ううん
たくさんの人にわたしの小説を読んでもらえるんだ。
そう思うと無性に嬉しくなった。
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