第1章 ある男の意見

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 たとえそれが事実だとしても俺は、彼と出会い、同じ時間を過ごし、愛し合えたことを後悔していない。    *  見つけた。  あいつの笑顔を見た瞬間、思ったんだ。  まだバース性が発現する歳ではないのにアルファの本能は、運命のオメガとの出会いを歓喜した。  空に太陽も、月も、星もない夜が何年も続いて暗闇だった世界に急に光が差し、夜明けが訪れる。それほどの衝撃だった。  そして悟ったんだ。  俺はこいつと出会うために生まれ、こいつは俺と出会うために生まれてきたのだと。    *  二十世紀にアメリカで“オメガバース”という第二の性が発見された。  地球上の80パーセントの人間はベータで、バース性が発見される以前の世界にいた人間と大差ない。  しかし残りの20パーセントのアルファとオメガは違う。エリート階級の人間がアルファで、社会的弱者がオメガだと定義されている。  アルファの女は子宮だけでなく精巣が発達しているので子供を妊娠させることができ、オメガの男は精巣だけでなく子宮が発達しているので子供を妊娠することができた。  俺の生まれた叢雲家はアルファの血が濃く、ベータやオメガの嫁や婿を迎えても生まれてくる子どもが必ずアルファになる珍しい家だ。  だけど――なぜか俺は、オメガとしてこの世に生を受けた。
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