第1章 ある男の意見

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 だけど、そんなものは大したことじゃない。ひどいのは泊りがけのときに、俺だけ食事が出ない・もらえないことだった。  コンビニも、飲食店も隣町まで車を一時間以上走らせなければないような村に、本家の邸宅があった。まるで監獄のような家屋で、一度屋敷に足を踏み入れたら、当主の「解散」という言葉が口から出るまで自由に出入りすることを禁じられる。本家の人間は看守のように分家の人間たちの一挙一動を見張っている。  母方の祖母は当主と血のつながった兄妹だが、その出自により本家への出入りを禁じられていた。  しかし、その子供である俺の母は当主により、幾度も本家へ連れて来られていたのである。しかし祖母の子供である母も、女たちからひどい嫌がらせを受けていたのだ。  親子(そろ)って、一族からひどい仕打ちを受けている状況に、母は悔しそうな顔をして泣くまいと唇を()みしめていた。  父は父で妻や子供に何もできないことを歯がゆく思い、ふつふつと湧き上がる怒りを堪えていたのだ。  本家の庭は学校のグラウンドのように広く、裏は山になっていたから親戚の子供たちがよく遊んでいた。  お盆休みのときに鬼ごっこをしていた。兄が鬼の役で、親戚の子供たちを追いかけ回す。親戚の子供たちは兄に捕まらないように走って逃げ回っている。 「兄ちゃん、俺も遊びたい! ねえ、俺も入れて――」  兄に声を掛け、手を握る。
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