鬼多見奇譚余話 異世界の誘惑

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「マサムネくん、また、ひろってきたの?」 「ハゥッ!」  紫織(しおり)の言葉に、秋田犬の政宗(まさむね)は得意げな顔をした。小学四年生の彼女は、彼のコレクションを一番理解してくれる。  政宗と紫織が暮らす戌亥寺(いぬいじ)は、猪山(いのししやま)と呼ばれる小山にある。寺の周りには他の民家はなく、人もたまにしか訪れないので政宗はノーリードでいる時間が多い。 「これ、キレイだね」  紫織は政宗が拾ってきたばかりの球体を手に取った。 「ボールかな? なんか、キラキラしてるね」 「ハゥン」  今日、政宗が拾ってきた球体はキラキラと淡い光りを放っている。政宗も紫織も気にしていないが、この球体はLEDや反射材によって光っているのではない。 「なんか、スゴいのを見つけたね。今までのコレクションの中で、一番のオタカラかな?」  (ちな)みに、政宗のコレクションはボールや棒きれ、片方しかない靴や手袋などである。そして、その多くは紫織以外の家族によって処分されてしまう。 「こんどは、すてられないように気をつけないとね」  政宗は同意を示すために紫織の手をペロペロと()めた。
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