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「ふむふむ、ここの角を曲がって、いや、あっちか?駅から徒歩五分なのに割と複雑な道が続くんだね。むずかしいよぉ」 スマホのマップを見ながらひとりごとが止まらない。あ、声のボリュームは小です。ご安心を。 この春、好きな人が大学生になり、一人暮らしを始めたらしい。教えてくれたのは三つ上の兄。ご丁寧にマンションの名前と部屋の番号まで送ってきてくれた。妹に甘い兄で助かる。 その人は高校生のときによく家に遊びに来ていて何度か挨拶をかわすうちに自然と顔見知りになった。私のことは〝香椎妹〟と呼んでいる。名字が香椎で、兄の妹だから〝香椎妹〟。それなら香椎美亜とフルネームで呼ばれる方がマシだ。 「つ、着いた〜〜!!」 嬉しくてマンションの前で飛び跳ねる。 が、しかし。サッカーボールを持った三人組の男の子(推定小学校三年生ぐらい)にヒソヒソされて恥ずかしくなったのでそそくさとマンション内に逃げ込む。
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