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その人は505号室の住人だった。
スーハースーハーと深呼吸をして、緊張で小刻みに震える人差し指で丸いポチを力強く押す。
『……』
「……」
『……』
「……え、いないパターンか、これ。うそーん」
『はい』
「はい。……はい?!あ、零くん、私です!」
『……香椎妹を呼んだ覚えないんだけど』
「呼ばれてないけど来ちゃいました!」
『……』
「だめでしたか?」
『……普通にだめだよね、非常識だよね』
「うぅ…っ」
『でも一番非常識なのはお前のお兄ちゃんだね』
「兄は私には甘々なので」
『シスコン野郎め』
兄への呆れを吐き捨てたその人は問答無用でインターホンの通信を切った。扉の向こうから足音が近づいてきたので、ああは言っても部屋に入れてくれるのだろう。
ガチャリと扉が開き、期待しながら顔を覗き込むと、ちょうど前髪を掻き分けた猫目の女性と目が合った。え、誰?
「——零ってこんなお子ちゃまにまで手出してるんだ。へえ、意外」
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