プロローグ

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プロローグ

「1000万ぐらいなら、俺が払う。だからそんな男とは離婚して、俺との未来を真剣に考えてくれないか?」 六本木の高級フランス料理の店を貸しきった静かな空間でクオンは私の目を真っ直ぐに見てそう言った。 確かに彼にとっては1000万なんてのレベル。 「もうお金なんてどうでもいいの」 突き放すように口にし、四六時中、胸に渦巻く感情がさらに暴れだす。 「お金なんてどうでもいい?だって美月はそれが必要だから今の……」 彼は喉に何か詰まったかのように、言葉を止めた。 「ソープ嬢の仕事は確かにお金のため。でも違う理由もある」 「違う理由?」 「……そう、違う理由。私が泡姫をしている理由の二つ目は、『あいつへの憎しみを退化させない』ため」 「美月はよく頑張った。だから1秒でも早く解放されて幸せになるべきだ」 「解放されて幸せになる?それは絶対にない。毎日の督促状と電話、法的処置、暴力、家畜のような扱い、そして私が体を使って70代のお客さんを舐め回す仕事。首を絞められながら変態のドSの中年に殺されかけたり、お尻の谷間まで舐めなきゃいけないドMのお客。これであいつが作った借金を一気にゼロにしてあげるなんて、ありえない」 食い縛った口の中は鉄の味がした。 「じゃあ、どうするつもり?俺はもう美月に染まっている。俺と真剣に結婚を考えてほしい。どうすれば俺だけを見てくれるんだ?」 「……復讐」 小さい声量だったけれど、はっきりと言葉にした。 「ふ、ふくしゅう?」 クオンは瞼を上げ、息を吐くと同時にそう漏らす。
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