赤箱の住人

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ゆっくりと腕が伸びてきて、わたしの髪をさらりと撫でる。 その手つきは柔らかくて、きっと女の人の扱いには慣れているんだろうなと思ってしまう。 「まだ寒い?」 ぎゅっとカップを包んで熱をもらっていると、となりの彼は心配そうに問うてくる。 どこまでも気を遣ってくれる優しさに申し訳なく思いつつ、ふるふると首を横に振った。 「ううん……今はぜんぜん。大丈夫」 「ん。でも少しだけ室温上げよーか?」 ……だ、大丈夫って言ったのに。 すぐさま立ち上がるラヴァを、慌てて引き留める。 「……っ、ラヴァ。わたし、もう充分だから」 「そう?」 「ほんとに……見ず知らずのわたしに、ここまでしてもらって、ごめんなさい」 千桐さんに向けても、頭を下げた。 温もりを感じてやっと心が落ち着き、いまの状況が冷静に見えてくる。 何も知らないのに、詳しいことは何も聞かずに、手を差し伸べてくれたラヴァ。 帰る家のないわたしを引き取ってくれた彼は、紛れもなく命の恩人だ。 居場所を作ってくれるだけで本当に助かるのに、これ以上優しくされたら困る。 ラヴァがとても紳士なのは短時間で実感したからこそ、余計にそう思ったのだ。 ずっと頭を下げたままでいるわたしの頭に、ぽんっと大きな手が乗った。 それはきっとラヴァの手で、見なくてもわかるようになってしまった自分に微かに驚いてしまう。 「そんなかしこまらなくていーよ」 ゆったりとした口調が心に染みる。 そんなこと言われても、この恩をどうやって返せば良いのかと思案するのはやめられないのだ。
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