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ラヴァ
◇
それは、凍えるほど寒い夜だった。
置き手紙のひとつも、ましてやラインのひとつもなく、母はいなくなった。
今日は遅くまで勉強してくると、事前に言っていたからかもしれない。
わたしがいない間を見計らって、母は例の彼氏と逃げたのだ。
帰ってきた場所は見知った自分の家のはずなのに、母の荷物は忽然と消え、ひどく寂しい小さな部屋だった。
衝撃のあまり落としたスクバから、スマホを取り出す。
まだ近くにいるかもしれない。
いまならまだ、間に合うかもしれない。
母がいなくなったら、────わたしは生きていけない。
そんなふうに、泣きたい夜の街を飛び出した。
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