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セオドア
事の発端、なんてもう何処まで遡ればいいのかもわからない。けれど、今のこの状況を作った原因ならはっきりしている。三時間前の話だ。
朝十時出港予定のこの船にユーゴたちが乗船したのは、乗船用のタラップが取り外される寸前だった。客船ターミナルで慌ただしくチェックインを済ませ、乗務員に急かされながらの乗船。
これについては寝坊をしたのはユーゴも一緒なのでレイを責めるつもりはない。
問題はもっとずっと後だ。
乗船後、すぐに避難訓練に参加させられた。これについても文句はないが訓練中に船が出港してしまって、離岸するところがゆっくり見れなかったのはちょっと残念だった。
その後ビュッフェで軽食を食べて、終わる頃に部屋に入れるようになった。ユーゴとレイも一度部屋に入ろうと客室を目指したが、部屋の前には制服を着た女性のキャビンクルーがいて、ふたりに気付くとペコリと頭を下げた。
「おくつろぎのところ申し訳ありません。船長のセオドアがおふたりにお会いしたいと申しております」
そう言われて、ユーゴとレイはそのキャビンクルーについて歩き、船長室に案内された。
レイが言うにはその船長のセオドアはレイの昔からの友人でこの船のオーナーで船長なのだという。どんな人なのだろうと少し緊張しながら、ユーゴは船長室のドアをくぐった。
「おー、レイ。久しぶり」
「セオドア!!」
室内にいたのはユーゴの想像よりずっと若くて小柄な男性だった。室内は手前に応接セットがあって、奥に執務用らしいデスクが置いてある。そのデスクを背にして立っていた彼にレイは駆け寄ると、ぎゅうぎゅうとその小さな身体を抱きしめている。
「馬鹿! 離せっ」
叩かれ蹴られ、渋々といったふうにレイは彼を解放した。彼はふうと息をつくと、ぴんと背筋を伸ばしてユーゴを見る。
「失礼しました。はじめまして。ホワイトプリンセス号船長のセオドアです。本日はご乗船ありがとうございます」
「あ、あの。こちらこそ。ユーゴと申します。よろしくお願いします」
手を差し出されて慌てて応じる。少し躊躇いながら軽く握った手はユーゴより一回り小さかった。
チラとその顔に視線を向けるとセオドアとパチリ目が合う。澄んだ松葉の色をした瞳は落ち着きと意志の強さを感じさせ、きっと彼は見た目よりもずっと大人なのだろうと思わせた。
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