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嘘と秘密の境界線-1
「他のみんなは?」
室内をくるり見回してレイが問う。
「ああ。集まるように言ってあるし、そろそろ来るよ」
セオドアがそう言い終わるか終わらないかのうちにドアがノックされ、返事を聞く前にドアが開いた。
「ホンマや。いた! ひさびさやなぁ。レイくん」
「お疲れ。久しぶり」
まず賑やかな声とともに赤髪の青年が入ってきて笑顔でレイと握手し、その後から入ってきた泣きぼくろのある青年はレイの肩をポンと叩いた。更にその後ろから来た金髪の青年は、軽くレイに挨拶をしたあと、下から覗き込むようにユーゴを見上げてくる。
「こちらがウワサの彼氏さんやね。ホンマべっぴんさんやなぁ。俺、リアム言います。よろしくね」
「ユーゴです。こちらこそよろしくお願いします」
視線を合わせると思ったより顔が近い位置にあって、びっくりして身体が少し引いた。それから自分がちゃんと眼鏡をかけていることを確認する。
エリヤを疑うわけではないけれど、この眼鏡はちゃんとその効力を発揮しているのだろうか。真っ直ぐにこちらを見ているトパーズの色をした瞳になんだか不安になる。
そもそもユーゴを『べっぴんさん』などと言っていたけれど、そう言った本人の方がとんでもない美人だ。
なんだか恥ずかしくなってきて、ユーゴはパッと視線を外して俯いた。
「こらこら騒ぐな。ユーゴさんがびっくりするだろ」
セオドアにそう言われ、三人ははいはいと適当な返事をする。それからユーゴたちとは応接セットを挟んで逆側に整列した。
「奥から、リアム、アラン、テオ、そしてセオドアです。俺ら四人とレイとユーゴさん。それから、今来ると思うんですけど、もう一人。今回の仕事はこの七人で当たります」
仕事……?
びっくりして横を見ると、パチパチと何度か瞬きをした後、レイがふにゃりと笑った。嫌な予感しかしなかった。
「あの…っ」
どういうことなのか訊ねようとして口を開いたところで、バタバタと騒がしい音がしてバン!と勢いよくドアが開いた。
「遅れてすんません!」
そう言って、誰かが転がるように部屋の中に入ってくる。
「あ、れ……?」
言葉を発したのは彼だったのか自分だったのか。
それすら曖昧なままユーゴは驚いて何度も瞬きをした。
そこにいたのは昨日会ったタフィーだった。
「ユーゴじゃん。なんで? どういうこと?」
言いながら部屋の中をくるりと見回している。
そんなの、訊きたいのは自分の方だとユーゴは思う。
タフィーが今日この船に乗ることは知っていた。知っていた、けど。
「タフィー、ユーゴさんと知り合い?」
「友達だよ」
セオドアの問いにタフィーがそう答えると、横にいるレイがびっくりした顔でユーゴを見た。
「え?! ゆーちゃんタフィーと友達なん!?」
「あ……え、えっと」
「ん? あれ? ユーゴの連れってレイくん? なーんだ。……嘘ついたんだな、オマエ」
「嘘?」
拗ねた顔のタフィーに言われて、ユーゴは首を傾げた。隠し事はたくさんしたけれど、嘘をついた覚えはない。
「だってユーゴの連れって、レイくんなんでしょ?」
「う、うん」
「言えば良かったじゃん。何で嘘ついたんだよ。レイくんみたいな大悪魔つかまえて人間だなんて…」
「な、タフィーっ!!!」
慌てたようにレイがタフィーを遮る。けれど、聞き捨てならない言葉がユーゴの耳にははっきりと聞こえていた。
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