その執事、xxxにつき

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「お父様!!っ……お母様!」 囂々と高い火が上がるのを見つめながらマリアは大声で叫んだ。 危ないとわかっているのに崖の方へと痛む身体を引きずりながら向かうマリアは両親を呼び続けるが答えるのは火が燃え広がる轟音だけ。 歩けば1分とかからないような距離を這いつくばって進むマリアは歯を食いしばりながら血だらけの体を動かした。 「……これは?」 やっと辿り着いた両親が消えた崖の側でマリアは黒い革張りの1冊の本が転がっているのを見つけると声を上げた。 その本をマリアは良く知っていた。 父が肌身離さず持ち歩いていたその本がただの本でない事も。 「……レオナルド!何をしてるの?!お父様たちを助けなさい!」 マリアは突然本に向かって叫んだ。 「……それは難しい要望ですね」 本が突然のように返事を返して来たが、マリアは驚く事なく続ける。 「そんな答えは求めてないわ、だって貴方は私の……でしょう!」 「それは光栄です、しかしそろそろ起きて頂かないと困ります」 「起きる?」 叫んですぐマリアは本が答えた言葉を復唱すると、突然全身を引っ張られるようにして夢の中から目覚めさせられた。 「……夢」 「おはようございます、お嬢様。何やらうなされていらっしゃったようですが、お加減はいかがですか?」 レオナルドは身体を起こしたマリアの肩にシフォン素材のカーディガンを掛けてから寝起きにぴったりのハーブティーを注いでマリアの前に差しだした。 「ローズマリーにレモングラスと今朝仕入れたばかりのオレンジをブレンドしました」 「とてもいい香りね……」 ソーサーごとカップを受け取ったマリアは爽やかな香りにぎこちない笑顔を見せた。
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