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次は?
『この方ですね』
こんな子いたっけ?
『あなたが亡くなってから転校してきた方ですね。在籍した期間は数ヶ月ほどのはずです』
そんな人が来てくれるかなぁ。
『さっきの方だってノリノリだったじゃないですか。念のため聞いてみましょうよ』
場所は? 天国? それとも地獄?
『どちらでもありませんね』
どこにいるんだよ。
『現世です』
は?
『実はこの方、幽霊になって現世に留まっておられるんですよねぇ』
なんでまたそんなことに。
『詳しい話はご本人に会って聞いてみましょう』
それもそうか。
◇
「どなたですか?」
説明が難しいな。
『アルバムを見せればよろしいのでは』
そうだな。ええと、こいつが俺なんだけど。
「……お話は聞いたことがあります。なんでも交通事故でお亡くなりになったとか」
そうそう。それが俺。
「そんな方が、私に何のご用ですか?」
実は、これこれこういった具合で。
「……せっかくのお誘いで申しわけないですけど」
あまり親しくないクラスの集まりなんて困るよな。
「いえ、そういうわけでは」
じゃあどうして?
「私には、やらなければならないことがありますから」
やらなきゃいけないこと?
『幽霊というのは、この世に強い未練を持っている方がなるものでして。その未練が解消されない限り、天国にも地獄にも行けないんですよ』
アンタの未練って?
「探しているものがあるんです」
一体なにを?
「……親友」
え?
「親友、です」
音信不通になった昔の友達とか?
「いいえ」
どういう意味か聞いてもいいか?
「……私、昔から家庭の事情で転校や引っ越しを繰り返していたんです」
うちの学校にも転校してきたって話だしな。
「大人になってからも転勤ばかりの会社に就職してしまって。そのせいで」
親しい人間を作れなかったことを後悔してると。
「幽霊の私が見える人もいるので、その中から親友になってくれる方がいないかな、と」
声をかけてみたのか?
「大抵の方は驚いて逃げてしまうんですが、中にはフレンドリーな方もいまして」
親友は見つかったのか?
「いえ、どうしても一定以上親しくなれないんです」
ん? よくわからんな。
『実際に声をかけている様子を見せてもらっては?』
それでもいいか?
「は、はい」
◇
――なるほどね。
「また、駄目でした」
そりゃそうでしょ。
「何がダメなんでしょう」
はっきり言うけど、アンタが原因。
「やっぱり幽霊が相手じゃ」
違う違う。それ以前の問題。
「?」
アンタ、本当は親友なんてほしくないんだろ?
「そんなことないです」
はたから見てるとそうとしか思えないんだよな。
「どうして」
だってアンタ。向こうが距離を詰めてくると、自分から引いてるじゃん。
「そんなこと……」
あるんだよな。まあ、気持ちはわからないでもないけど。
「何が、ですか」
――自分は幽霊だから、いつか別れが来るから。
どうせ転校するから。すぐに転勤になるから。
「っ」
そうやって、これまでも親しいやつを作ろうとしなかったんじゃないか?
「……あなたに」
ん?
「――あなたに、私の何がわかるんですかっ」
…………。
「突然父親に出ていかれて! 母親から『結婚しなきゃよかった』とか『あんな人と出会わなければよかった』とか毎日のように言われて!」
「仕方ないじゃないですかっ。別れを怖がって親しい人を作れないのの、何がいけないんですか!」
――いいんじゃないの?
「え?」
別れが嫌なんて、当たり前のことだ。それが人間ってもんだろ?
「何を……」
天国ってさ。いろんなやつが来るんだよ。
「?」
人生に満足しきったやつなんてごくわずか。ひどいのになると、すっかり疲れ果てちまってたり、後悔ばかり口にしてるやつだってめずらしくない。
そういった人間がゆっくり傷を癒すのが天国ってところでな。みんな少しずつ前向きになって、新しい自分に生まれ変わっていくんだよ。
「そんな……」
たしかに俺は、生きてるうちに誰かに旅立たれた経験なんてない。それどころか誰よりも早く死んじまった親不孝者さ。でも、
天国で親しくなったやつに旅立たれた経験なら、俺に勝るやつはいないぜ?
「え?」
『このヒト、天国歴が長いですからねー』
天国で仲良くなっても、生まれ変わると記憶がリセットされちまうから、現世で再会できたとしても気づけないんだ。そうだとわかっていても、人間ってのは誰かと仲良くなりたい生き物なんだよ。
「それは……」
アンタだって心の底ではそう思ってるから、こうして幽霊になってまで親友を探してるんだろ。自分で自分に嘘をついてたら、親友なんてできっこないさ。
「私は……」
もっと気楽に考えなよ。別れがあるからって、それまでの時間が無駄になるわけじゃないんだからさ。
『いいコト言いますねぇ』
ほら、同窓会に参加すれば、良い友達が山ほど見つかるかもしれないぞ。
「……そう、ですね」
おっ、初めて笑ったな。
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