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『いいんですか? あの方、もう未練はなくなってましたよ』
気持ちを整理する時間も必要だろうし、自分の意思で成仏したくなるまで放っておいていいんじゃない?
『天使としては、あまり褒められたことでもないんですけどねぇ』
同窓会には参加するって言ってくれたから遅かれ早かれさ。気を取り直して、次に行こうぜ。
『いよいよ、最後の方ですね』
委員長か。どこにいるんだ?
『ここです』
現世? 委員長も幽霊になっちまってるのか?
『いえ、こちらの手違いがありまして』
ん?
『この方、まだお亡くなりになってなかったんですよ』
……は?
『いやー、まさか百十歳まで生きておられるとは、普通思わないじゃないですか』
おいおい、どうするんだ?
『その日だけ幽体離脱でもさせて参加してもらいます? 魂にかなり負荷がかかっちゃいますけど』
だめじゃん。
『まあ、長くてもあと一年ほどの寿命のようですし、参加をご希望なさったら日程を調整し直しましょう。そのあたりはこっちでやっておきますから、あなたはこの方へのお声がけだけお願いします』
どうやってやるんだ?
『夢枕に立つんです』
それは面白そうだ。
◇
「……誰だ?」
このやりとりも、これで最後かぁ。
「誰だ、と聞いておる」
俺はこれこれこういった者で。
「ふん、同窓会なんぞ馬鹿らしい」
委員長って、そんなキャラだったっけ?
「そんなもの参加せんから、さっさと帰ってくれ」
でも出席しないの委員長だけだよ? 顔くらい出してもいいんじゃない?
『せっかくここまで集めたら、コンプリートしたくなりますよね』
「……わかった。どうせ死んだ後など知ったことではない」
よし、じゃあ日程はリスケだな。
「ちょっと待て。先ほどの話だと、儂の寿命はあと一年ということだが」
『目安ですが』
「もういいから、とっとと連れていってくれ」
は?
「生きている意味もないから、今すぐ天国でも地獄でも連れていってくれと言ってるんだ」
…………。
『本当によろしいんですか? 自死と変わりないですから、もれなく地獄行きになりますよ?』
「まあ、仕方ないな」
……ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。
「ふざけているつもりなど、毛頭ないが」
じゃあ大馬鹿野郎だっ。どうして自分の命をそんな軽く扱えるんだよ!
「百十だ。もうじゅうぶんに生きただろう」
それを決めるのはお前じゃねぇ!
「儂の家族だって、それを望んでいるだろうしな」
は?
「たっぷり残っている財産も、儂が死なぬ限り自分たちのものにできないと思っているからな。そろそろ我慢も限界なのではないか?」
本人たちに確かめたのかよ。
「聞かずともそれくらいわかる。これまでの数十年、儂の周りはそんな魑魅魍魎ばかりだったからな。もう、うんざりなのだよ」
……おい、天使サン。
『なんですか?』
この夢枕っての、他のやつにもできないのか?
『上に聞いてみないことにはなんとも』
なんとかしてくれ。なるべく早く頼む。
『何をなさるおつもりで?』
委員長。
「なんだ?」
やることやったら、また来る。楽しみに待っとけ。
◇
――よぅ。
「久しぶり、でもないか」
その様子だと、効果はあったみたいだな。
「一体、あの子たちに何をしたんだ?」
少しケツを叩いて、自分の気持ちを素直に伝えるようにハッパをかけただけだ。
「いきなり泣きつかれて、死ぬかと思ったぞ」
お前さんが言うとシャレにならないな。
『寿命は縮まってませんので、ご安心を』
「……儂は、間違ってたのか」
ちと目が曇ってただけだろ。
「耄碌したつもりはなかったのだが」
魂がすり減ると、人ってのはどうしても心が弱くなっちまうからな。どんなやつでも歳には勝てないんだよ。
「違いない」
天寿をまっとうする気になったか?
「ああ。こうなると一年という時間がどうしようもなく短く感じるな」
いまさら後悔しても後の祭りだ。せいぜい家族と大切に過ごすんだな。
「そうさせてもらう」
同窓会は参加でいいんだよな?
「ああ。どれだけ良い家族に恵まれたのか、存分に自慢してやるさ」
ほどほどにしてくれよ。
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