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「や、ひさしぶりー」
「本当に◯◯か? もはや別人だろ」
「え? お前たち結婚したのか?」
「なんだよ、結婚式に呼んでくれればよかったのに」
「駆け落ち同然で一緒になったからねー」
「ああ。まともな式は挙げなかったんだ」
「アンタ、見た目の若さが自由に変えられるからって、ロリはないでしょ」
「いいじゃん。若返るのがずっと夢だったんだから」
「お前、地獄に行っちまったんだってな。どんなトコなんだ?」
「案外悪くないぜ。仕事はたっぷりあって余計なコト考える暇もないしな」
「あー、天国って何もすることがないから、たまに無性に働きたくなるんだよなぁ」
「わかるわかる」
「ねえねえ、アタシのこと覚えてる?」
「は、はい。◯◯さんも、よく私のこと覚えていらっしゃいましたね」
「ずっと会ってなかったくらいで忘れないって。友達なんだからさ」
「……そう、ですね」
「委員長、だよな?」
「そうだが」
「いやいや、せめてもう少し若い見た目に戻してくれないと分かりづらいって」
「すまん。なにしろ死んだばかりなものでの」
「マジで? 一体、何歳まで……百十二?!」
「すげぇ」
「テレビでは何度も見たことあったけど、そんなに長生きしたのか」
「さすがオレたちの委員長!」
「そこにシビれる!」
「あこがれるゥ!」
「仲良いな、お前ら」
……やれやれ。なんとか開催まで漕ぎ着けられたか。
『お疲れさまでした』
天使サンも、いろいろとありがとな。
『ボクは自分の仕事をしただけですよ』
いや、そっちじゃなくって。
『なんです?』
――この同窓会、俺のために企画してくれたんだろ?
『……どうしてそう思うんですか?』
おかしいとは思ってたんだよな。長く天国にいるけど、『天国同窓会』なんて話、聞いたことなかったし。
『唐突すぎましたか』
神サマの思いつきってのも嘘くさいし。
『事前に許可はいただいてますが』
よかった。ドラマ好きの俗っぽい神サマはいなかったのか。
『あ、それは本当です』
マジか。まあ、それは置いといて。最初に「ちょうどクラスメイトが全員亡くなった」って言ってたよな。
『実際は、委員長がご存命でしたが』
それを除外しても、みんなに話を聞く限り百歳以上生きてた人なんていなかったみたいだし。タイミングとしては微妙かなぁと。
『いやー、前々から案としてはあったんですけど、突然生まれ変わりを希望するクラスメイトさんが現れたもので、こんなタイミングになってしまいまして』
理由って、やっぱり俺がここに長く居すぎてるから?
『特に何かに違反してるわけでもないんですけどねー』
不自然だよなぁ。
『――誰かを置いて旅立つのは、怖いですか?』
……まあね。
『天国でさんざん別れを経験なさったのもあるのでしょうね』
置いてかれる辛さは、身を沁みてわかったからな。あーあ、自分がこんなに女々しいやつだとは知らなかったよ。
『どれだけ長生きしても、気づけないことはあるものですよ』
まったく、どのツラ下げて説教なんてしてるんだか。
『あなたの本心が聞けて、ボクはうれしかったですよ』
天使サンとも長い付き合いだからねぇ。
『いい加減、天使サンなんて他人行儀な呼び方は卒業してもらいたいところですが』
考えておくよ。
『少しはスッキリしましたか?』
すぐにとは言わないけど、俺も生まれ変わりを考えてもいいかな、と思うくらいには。
『それは大変重畳……なのですが、ひとつ困ったことになりまして』
困ったこと?
『実は、此度の働きっぷりを神サマが大層お気に召しまして。あなたを天使にスカウトしたいと』
……天使?
『はい』
俺が?
『大抜擢ですね』
天使って、何するのさ。
『天国の魂が傷を癒やすお手伝いをしたり、現世に彷徨う魂をこちらに呼び戻したり。あなたが今回なさったことと同じようなものですね』
だからスカウトが来たと。他には?
『その様子だと、前向きにご検討いただけると?』
今回の件は楽しかったしね。
『もしも生まれ変わりたいと決意なさったら、いつでも辞めてくださってかまいませんので』
そりゃありがたい。
『詳しいお話は、実際に神サマからお聞きになるとよろしいかと』
今すぐ? どうせなら同窓会を満喫したいんだけど。
『大丈夫ですよ。ここの店長が、神サマですから』
は?
【どもー。飲み屋のおかみさん改め、神サマでーす】
……え?
【やあやあ、今回はご苦労だったね】
神、サマ?
【◯流ドラマにどハマり中の神サマでーす】
いや、何のドラマかまでは知らないですけど。
【いいツッコミだねー。こいつは将来有望だ】
天使って、ツッコミ必須なんすか。
【みんな素直な子ばかりでねー。面白い返しをしてくれるのは、この子くらいなんだよ】
『いえいえ、神サマにツッコめるのなんてこの方ぐらいですって』
俺に丸投げするなよ。
【仕事の話だけど。基本的にはこれまで通り過ごしてもらってかまわないよ。たまに個別で何かお願いすることはあるかもしれないけど】
そんなにゆるくていいんですか?
【うん。ぶっちゃけキミって、これまでも天使みたいなものだったし】
は?
『あなたと知り合ったり、お友達になった方は、みなさん傷を癒やすペースが早かったんですよ。そのせいで辛いお別れを何度も経験させてしまうことになりましたけど』
そういう理由だったら仕方ない、のか?
【引き受けてくれるかい?】
いいですよ。
【よしっ、そうと決まったらお祝いのパーティーだ! どんどん酒持ってこーい】
「「「おーーー!!!」」」
おいおい、他のやつらも便乗するなって。
『これからは同僚ですね』
ま、よろしく頼むわ。
『できるだけ長くご一緒できるとうれしいです』
善処するよ。
【あ、そうそう】
神サマ?
【言い忘れてたけど、早速やってもらいたい仕事があるんだった】
何ですか?
【この子から聞いたけど、天国で何かイベントを開きたいんだって?】
あればいいのに、といった程度ですけど。
【――幹事、よろしくね】
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