プロローグ

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プロローグ

 その手紙が俺の元に届いたのは、Lobeliaが活動停止を余儀なくされてから一年の時が経とうとしていた頃のことだった。  コンビニ帰り、自宅マンションのポストを開けると、そこには不審な茶封筒が投函されていた。手に取ると、封筒の表面にはサイズ調整すらされていない不格好な文字で、俺の名前だけが印字されている。差出人もない。住所もない、切手すら貼られていない。それはつまり、誰かこの手紙を直接この場所に持って来たということになる。  俺は迷いながらもその手紙の封を切った。   ―――――――――― 杉山響介様 十月一日午前十時 新宿和食料亭『榛の月』 蒼の間にて、俺は復讐をする。 雛宮光輝 ―――――――――― 「な、なんで……」  思わずそう呟いた口を、自らの手のひらで塞ぐ。その差出人の名は、俺が予想していたどれとも違う。この世で最もありえない、あってはならない名前だったからだ。 「おちつけ。そんなはずないだろう」  自分自身にそう言い聞かせ、ボサボサに絡まった長髪を掻きむしる。背筋を伝う悪寒が、無防備だった神経を鋭く尖らせ不安を煽った。  ファンのイタズラにしては度が過ぎている。『復讐』という言葉を選んでいるのも、偶然とは考えられない。  それともまさか、本当に……。  汗をかいた缶ビールがコンビニ袋の中で揺れ、手首の柔らかい皮膚を容赦なく締め付ける。脈拍を奪われるような圧迫感。一層のこと内側で破けてしまえば、何かを思わずにすむのだろうか。  流れの早い雲が影を運び、エントランスにさしこむ清らかな明かりを、全て奪い去っていった。
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