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34 一方そのころ、冒険者ギルド。
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冒険者ギルド。
「おら、リサ。見ろよ」
カウンターの上にじゃらじゃらと誇らしげに古い金貨を並べたのは、スキンヘッドの巨漢ジョイスだった。数日ぶりに街に帰ってきた彼は、珍しく冒険者らしい冒険を成功させていた。
「あら。大漁じゃない」
リサは目を見張る。
「モノラグのダンジョン、もう枯れたと思ってたのに。まだそんなに金貨が残ってたの?」
「節穴どもがいくらうろついたって、見つかるものも見つからねえってことだよ。だがこのジョイス様の目はごまかせねえ」
「自分の手柄にするんじゃねえよ」
ジョイスの仲間の、これまた人相の悪い盗賊が割り込む。
「見つけたのは俺だろうが。お前は後ろで見てただけだ」
「分かってるよ。だからお前の取り分を多くしてやっただろうが」
「取り分を多くすりゃ、手柄まで持ってっていいと誰が決めた」
「細けえことはいいじゃねえか、うるせえな」
「まあまあ、二人とも」
リサが仲裁に入る。
「帰って来て早々、ケンカしないでよ」
口の悪いのはお互い様なので、ジョイスと盗賊も特に気にした様子もない。
盗賊が戻っていくと、ジョイスは金貨をまたしまい直す。
「でもよかったわね、成功して」
リサの言葉に、ジョイスはにやりと笑う。
「ああ。ちょっと無理したかいがあったぜ。それより、お嬢ちゃんの調子はどうだ」
「フィリマのこと?」
「そう。それだ」
「何照れてるのよ」
リサは微笑む。
「あの子なら、臨時メンバーの要望書にあなたたちのパーティがなかったから、ちょっとショック受けてたわよ」
むぐ、とジョイスはうなり声を上げる。
「仕方ねえだろ。前から決まってたダンジョン遠征だったんだから」
ジョイスは言った。
「そういう風に、フィリマに説明してくれたんだろ?」
「ええと」
リサは頬に指をあてた。
「どうだったかしら。覚えてないわね」
「言ってねえな、こりゃ」
ジョイスはため息をついた。
「まあいいや。それで今日は休みか?」
「フィリマ? ああ、それがね……」
リサは、フィリマが“白い燕”のアランたちとゴブリン対策のパトロールに従事した話をする。
「アランたちと組んだのか」
ジョイスは鼻を鳴らす。
「まじめだが、面白みのねえ連中だ」
「誰かさんよりもよっぽど信用できるけどね」
「ああ?」
「でも今回はちょっといただけなかったのよ」
「どういうことだ?」
ゴブリンの痕跡を見落としていて、今日改めて確認に行っているというリサの話を聞いたジョイスは太い眉を顰めた。
「ゴブリンの足跡の追跡か……。もしかしたら、応援要請が来るかもしれねえな」
「ええ、今ちょうどそれを言おうと思ってたのよ。帰って来て早々、申し訳ないんだけど」
「おい、お前らまだ酒を飲むんじゃねえ!」
ジョイスは振り向いて仲間たちに怒鳴った。
「ゴブリンとやりあうことになるかもしれねえ。飯だけにしとけ。応援の要請があったら駆けつけなきゃならねえからな」
仲間たちからは不満の声が上がったが、それでも酒を頼む者はいなかった。
「ありがとう、ジョイス」
「別に」
ジョイスは、ふん、と鼻息を吹く。
「ゴブリンが出りゃ、街の一大事だ。冒険者として当然だろ」
それに、とジョイスは言った。
「久しぶりの魔法使いだ。大事に扱ってやらなきゃいけねえ」
「……そうね」
リサが頷き、何となくしんみりとした空気が漂う。
ふと、リサが天井を見上げた。
「なんだか、今日はやけにカラスがうるさいわね」
「そうか?」
つられたようにジョイスも天井を見上げる。
確かに、微かにがあがあというカラスのだみ声が聞こえてきた。
「近くの路地に死体でも転がってるんじゃねえのか」
「物騒なこと言わないでよ」
リサは顔をしかめて、それからまた耳を澄ませて首を振る。
「本当にうるさいわね」
「ああ」
ジョイスが頷いたとき。
突然、ギルドのドアがばあん、と開いた。
「あ?」
ジョイスたちが見るが、そこには誰もいない。
いや、いた。
小さな白いとりと三毛のねこのぬいぐるみが、ふこふこと入ってきた。その背後にばさばさと数羽のカラスが舞い降りる。
「あなたたち」
リサが声を上げる。
「フィリマたちはどうしたの?」
「応援要請に来たぞ」
とりは元気に言った。
「お、そこにいるのはジョイスか。ちょうどよかった。ぼくらと一緒にゴーだ」
「ごーごー!」
ねこもぴこりと腕を上げる。
ジョイスとリサは顔を見合わせた。
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