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ガサガサ……。
突然草むらの中から物音がした。風歌はびくりと肩を大きく動かし、音のした方を見る。草はゆらゆらと大きく動いていた。
(何?もしかして熊?)
風歌はゆっくりと後ずさる。草は大きく動き、やがて何者かがゆっくりと姿を見せた。姿を現した存在を見て、風歌の中から一瞬で恐怖が消えていく。
「こんなところでどうしたの?飼い主さんは?」
思わず話しかけていた。目の前にいたのは熊ではなく、一匹の犬だった。泥だらけのせいで犬種はわからないものの、垂れ耳の大型犬であることはわかる。
風歌はゆっくりと犬に近付き、拳を作った自身の手を近付けて犬に匂いを嗅がせた。風歌は祖父母の家で犬を飼っていたことがあるので、犬との触れ合い方はわかっている。匂いを嗅がせるのは挨拶の代わりだ。犬はクンクンと匂いを嗅いだ後、風歌に擦り寄ってきた。
「すごく痩せてる……」
犬は肋骨が浮き出るほど痩せており、長い間山を彷徨っていたのだということがわかった。犬の首には首輪と鈴が付けられている。
「もしかして君はーーー」
風歌は胸が痛くなっていく。人間の身勝手な都合でこの犬は山に置き去りにされたのだと一瞬でわかったのだ。
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