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少女1
「誰かいませんか! 助けてください!」
掠れた私の声だけが虚しく響き渡る。
返事はない。
長時間叫び続けたせいか、喉の奥から血の味がした。
一体なぜこんなことになってしまったのだろう。今自分が置かれている状況も、時間も、場所も、己の安否すらも。私には一切理解することができなかった。
目覚めて初めて見たものは、一面に広がる漆黒の闇だった。
咄嗟に指先で触れて確認してみると、確かに瞼は開いているのに、私の目は一筋の光も捉えることができなかった。
半狂乱になりながら、私は自分の身体をひとつひとつ確認した。
指の腹で自分の眼球を何度も撫で、それが自分の意思で動いているか否かを確かめた。無数の髪を引き抜き、一本一本手のひらに並べた。爪を噛み、皮膚を摘み、耳の形をなぞる。視力の他に自分の身体に欠陥がないか、何度も、何度もたしかめ続けた。
それでも結論のでない恐怖に、いつか少女漫画でみたように自らの頬をぎゅっとつねる。この非現実的な状況を、夢と疑ったからだ。
「痛っ……」
恐怖で感覚麻痺した指先はうまく制御がきかず、必要以上に自分を傷つけた。鈍い痛みが頬を刺し、じんじんと痺れた感覚だけがのこる。
それでも後悔はなかった。この恐怖から解放されるのであれば、多少の傷が顔にのこったとしても構わなかった。
ただ、問題はそこではなかった。痛覚があるとなると『夢ではない』という結論になってしまうからだ。
それならばきっと失明だ。やはり視力を失っているのだろう。
だとすれば、事故や突然の病気である可能性が高い。経緯や理由はわからないが、そうとしか考えられなかった。
生温いものがゆっくりと頬をつたう。それが涙なのかそれとも血液なのか、私には確認する術がない。
この世界に、こんなに深い闇があるなんて知らなかった。こんな絶望の色などしりたくなかった。
散らかった頭の中で導き出したその答えは余りにも残酷で、私を更なる混乱へと導いた。
「助けてください……誰かいませんか」
無情にも、酷使し続けた私の喉は限界を迎えていた。唇だけがその言葉を追いかける。音になりきれなかった声は吐息となり、弱々しく口から零れ落ちていった。
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