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少女3
自暴自棄になった私は、壁に、床に、天井に、後先の事なんか考えずに体当たりを続けた。
こんな所で死ぬのなら、今骨が折れたって構わない。自分の状況もわからぬまま死ぬなんて、そんな惨めな最期は御免だった。
「誰か気づいて!」
鈍い金属音が虚しく響き、痛みだけが残る。
窓もない、出口もない、一体何なんだ。小道の先に何があった? 大きな事故にでも遭って視力を失い、何処かの地下にでも滑り落ちてしまったのだろうか。もしも此処が地面の中だとしたら、警察も見つけられないのではないか。
本当にもう誰にもう、私の声は届かないのだろうか。
役立たずの目から止めどなく流れる涙が気道を塞ぐ。私は息の仕方さえ忘れ、絶望を知った。
どうせ死ぬのなら、此処が何処かなんて関係ないじゃないか。このまま目を閉じて、その時を待てばいい。余計な体力を使うだけだ。万が一本当に骨が折れてしまったら、最期まで痛みにたえなくてはならないのだから。
答えを出しかけた、その時だった。
溢れた涙に触れようと、床に伸ばした手に何かがあたる。それはカチャリという音を立て、勢いよく足元に倒れた。
私は恐る恐る手を伸ばし、その物体に触れる。
鞄の中に、こんなものがあっただろうか。手のひらにぴったりと収まる、細長い円柱のような……。
「か、懐中電灯?」
慌ててスイッチを探り当て、死にものぐるいで明かりを点ける。と、煌々輝く白が、闇に溶け込んだ瞳に深く突き刺さった。
「みえる!」
私の手、私の足、私の身体。
それを見た瞬間、どんな感情よりも先に『生きている』と、そう思った。それは、暗闇の中、死を覚悟した証だった。
震える手はあちこちに叩きつけたせいで赤く腫れ上がり、拭った涙でびしゃびしゃに濡れている。
視力が失われたという選択肢が消え、今度は安堵の涙が零れた。だがそれも束の間、すぐに我に返ると、私は慌てて辺りを照らし出した。
其処は、金属の箱だった。
咄嗟に棺を思い出したがそれにしては小さすぎるし、形も立方体ではなく正四面体。やはり窓も出口もないし、指先の見解通り鞄のスマートフォンもなかった。
こんな所、地球上に存在するのだろうか。もしかして私はUFOにでも拐われたのではないか。そもそも宇宙にも懐中電灯などあるのだろうか。
それとも、突然始まった戦争に倒れ意識のないまま誰かにシェルターに移動させられたという事も考えられる。しかしそうであれば、もう少しまともなつくりをしているのではないだろうか。懐中電灯ひとつで生きられないことくらい、誰にでもわかるだろう。
何を想像しても答えなどなく、行き着く先に光はない。
目が見えただけで、前に進めた気がしていた。しかし絶望は変わらず私を捕らえて離さなかった。
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