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少女4
私はとうとう、叫び声をあげることをやめた。
どんなに絞り出そうと声帯はうまく機能してくれず、諦めを知ったのだ。
このままわけもわからずに、こんなところで死ぬのだろうか、私は。家族や友達に別れも言えぬまま、こんな場所で、一人きりで。
一体私の何がいけなかったのだろう。私が何をしたというのだろう。母が毎日私のためと作ってくれている朝食に、文句を言ったから? 自分が早くかえりたいからと、担任に対して理不尽にイライラしてしまったから? 買いもしない雑誌を立ち読みして、本屋に迷惑をかけてしまったから? 優しい市川さんと歩くのが本当は居心地悪くて、コンビニに寄ると嘘をついたから? それとも、傘を忘れておいて、面倒だからと明日にまわそうとしたからだろうか。
人生がそこで終わるとわかっていたら、明日がないとわかっていたら、私だってそんなことしなかった。
干からびた頬に最後の涙が伝う。食いしばる奥歯がギシリと音をたてた。
――違う。わかっていてするのでは、遅すぎるのだ。きっと今という時を一生懸命生きなかったから、バチがあたったのだ。
涙を拭い、唇を噛みしめる。今度こそ確信があった。私の人生はこれでおしまいなのだ、と。
私は初めて、死を受け入れた。
私がいなくなったら、お母さんは泣くだろうか。子供が先に死ぬってどんな気持ちなのだろう。何処かで養子でももらってくれば、同じように笑ってすごせるだろうか。否、或いは母子家庭という枷が外れ、再婚に踏み切ることができるかも知れない。
裕子は私がいなくなったら、学校を休むだろうか。いつも二人居たから、クラスに居場所がなくなるかもしれない。でもきっと、優しい市川さんがさり気なく話しかけて、気遣ってくれるだろう。
私は最後の力を振り絞り腕を持ち上げると、鞄の中からボールペンとノートを取り出した。
「お母さん、いつもごはんありがとう。不味いなんて言ってごめんなさい。裕子、いつも仲良くしてくれてありがとう。大好き。みんな、私のぶんも幸せになってね」
届くかわからない。それでも、書かずにはいれなかった。
そうしている間に、私の目には再び暗闇が訪れた。作られた闇とは違う、何処か温かみのある黒だった。今度こそ本当に見えなくなったんだと、私はすぐに理解した。
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