勇気の代償 ※初回ここまで

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勇気の代償 ※初回ここまで

 パトカーのサイレンが聞こえる。警察がやってきて、手錠を掛けられた。テレビのニュースでよく見た光景。まさか自分が、当事者になるとは思わなかったけれど。  それからは、ずっと頭がふわふわしていて、まるで白昼夢を見ているみたいだった。  拘置所に入れられて、それからしばらくして裁判所へと連れていかれる。護士とか裁判官とか警察官とかたくさんの人に囲まれながら被告人席に座らされると、弁護士になって裁判をするあのゲームみたいだな、なんてのんきなことをぼんやりと考えていた。 「被告人の行為は、残虐かつ行き過ぎており、到底正当防衛としては認められない」  私が本で殴った男子生徒は、頭蓋骨が陥没して死んだらしい。 「よって、被告人を懲役八年に処する」  私は、少年刑務所というところに入ることになった。普通の刑務所と違って、授業があったりカウンセリングのためのグループワークを受けさせられるのだが、それにいったい何の意味があるというのか。  更生したとて前科が付いたのだから、もうまともな人生は送れないだろうに……。 「あーァ。残念だったネ、残念だったネ」  三日月の形をした二対の瞳が私を見下す。目の前に座る黒ずくめの男は、面会の名目で私に会いに来ていた。 「誰……?」  彼は口元をゆがませて不気味に笑うと、懐から一冊の取り出して私に見せた。  本の題名は『POWER』――『力』だ。あの日、私が手に取った本。そして、私を強姦しようとした男子生徒を殺した本。私の人生を、狂わせた本。 「この本で、ズバーン! ってやっちゃったからネ。グケゴケゴケ。前科ついちゃってカワイソウにネ。グケゴケゴケ」 「私を、馬鹿にしているの?」 「違うヨ~」  彼はブンブンと首を振って、本を懐にしまった。 「馬鹿にしてるんじゃなくて、」    私を指さす。 「馬鹿なのサ」 「なっ!」  怒りに体中の血液が沸騰しそうになり、そのまま勢いに任せて立ち上がった。 「五百十九番、座りなさい」 「っ~~~~!!!」  振り返って刑務官を一瞬睨みつけ、すぐに目線を前の無礼な男に戻して、怒りをいなすように、ゆっくりと息を吐きながら座る。 「アンタも暇人ね。わざわざ、私みたいな社会のゴミを嘲笑いにここまで来るなんて」  せめてもの抵抗で、罵って見せた。 「アー、違う違うヨ~」  男は、フードの中に手を入れて側頭部をボリボリと掻いてから、こう言った。 「オレなら、君の運命を変えらレる」    
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