そんなあなたがなんか好き

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そんなあなたがなんか好き

散々わちゃついた後帰宅したが、『明日は彼氏』宣告された後なので気まずいったらない。 ややぎこちないテンションでスマホを見ながら過ごしていると(案の定シズクは一向に水槽に帰らない)、突然『あのー』と声をかけてきた。 「今日…マジでありがとうございました。」 「え?それはもういいって。飼い主として当然だし?」 「『飼い主』…」 ソファーの向かいに腰を下ろしたシズクは、明らか何か言いたげだ。まて、言わんとすることは伝わってくるが、君が『彼氏(仮)』化できるのは明日のみぞ。私は咳払いをし、非難に値しないことをアピってみる。 「まぁ、でも…これからも働き続けるんなら、本当気を付けてね。」 シズクの目がふと真剣になる。 「…幻滅しました?俺に。」 「や…まぁ、もっとしっかりしなきゃだめよとは思いましたが。…でも、そっか。女性が『無理やり押し入られた』って言ったら、みんなそっちを信じちゃうか…」 「はい。だから俺は、確実にそうじゃないって証明できる『第三者』が必要だったので…」 「あえて自力で逃げないで私を待った、と?」 シズクは、嬉しそうににっこりする。 「俺、今日のことでもっとマキさんが好きになりましたよ。」 う…こいつはまたド直球にこういう事を!恥ずかしさに、私は思わず目をそらした。 「マキさん恥ずかしいんですか?」 「そ、そんな面と向かって好きとか言われるの慣れてないんだって!」 「じゃあもっと慣れてもらわないとな…。マキさん、好きです。」 「…っ。」 思いっきり赤面するとなぜかシズクも赤くなり、気まずい時間が部屋に流れた。 「あ!!明日…どこ行きたい…スか?」 「へっ?…あぁどうしよう、映画とか…スかね?まってごめん。デートって何するんか分からん」 「買い物してお茶して、映画見て散歩してディナー…とかなんでしょうかね?」 「おっ、おおなんか詰め詰めだなよく分からんけど…とにかくシズクに任せていい…?」 「了解っす!じゃあ予約とか色々取っておきますね!!」 意気揚々とスマホを手に取ったシズクは、その日私が眠りについた後で着々と明日の計画を立てていたらしい…。 ・・・ 「じゃ、行こっか!…マキ。」 「応…!」 マンションのドアを出た瞬間、いたってナチュラルに手を握られカンカンカンカン!!と脳内警報が鳴り響く。 「ちょまったぁ!ちょっとまって…下さいっ…!」 なぜか小声になる私。 「あ、駄目…でした…?」 同じくなぜか小声のシズク。 「いや、まあ一応君はカモフラ彼氏なので…ここまでオッケー/ここからアウト的線引きをはっきりさせておこうかと。」 「えー俺信用ないっすねー。」 「信用とかじゃなくルールはあったほうが後々面倒にならないの!」 シズクは『じゃー…』と言いながら顎に手を当てる。 「じゃー腕組み?」 「まあマル」 「手繋ぎ…ってかこれくらいはしないとカモフラにもなんないっすよ」 「じゃあマル」 「キスは?」 「ダーッ!ダメでしょそらぁ!ワレワレハ!ペットト飼い主!」 「わっ…かりましたぁ…」 見るからに不満気なシズクを前に私は全力で話題を変えた。 「で、今日どこ行くの?」 「いろいろ考えたんですけど、やっぱベタに遊園地かなって。」 「魚の君が水族館だとシュール極まりないもんね…えっ、てまさか、舞浜!!?」 「フッフーン。とゆーわけで!はい!!」 シズクが満面の笑みで差し出した手を取ると、我々は1人と1匹、夢と魔法の王国を目指し歩き始めた。 ・・・ 無事テーマパークに入園し、我々はあれこれと手当たり次第にアトラクションを楽しんでいく。 休憩がてらパークのアプリを確認した私は、シズクに話しかけていた。 「1番人気のアトラクション、待ち時間ちょっと短くなってるよ!」 「…ん?」 人混みの喧騒でよく聞こえなかったらしい。私はシズクの耳元に顔を近づけた。 「待ち時間、今短いって!!」 「……」 あれ?聞こえなかったか??と思っていたら、シズクは急にこっちに顔を向けてきた。不可抗力的に我々は至近距離で見つめ合うことに……シズクは真剣な瞳でそのまま唇を近づけ… 「ちょ!!流れでキスしようとすな!!!」 私はバッ!!とシズクから距離を取る。 「バレたか…」 「バレるバレないのレベルと違うのよ…あーもう!とにかく行くぞっ!!」 照れ隠しに勢いよく歩き出したとたん、後ろから誰かが背にぶつかり、手に持っていたかばんが落ちた。とっさにシズクが拾ってくれる。 「マキさん大丈夫!?」 ぶつかった女性はちらっとこっちをふりむき、そのまま歩き去ろうとした…が、私の隣のシズクが目に入ったとたん『ごめんなさーい!!』と輝くばかりの笑顔を見せた。はい、シズクがイケメンだったからですよね~…。シズクは笑顔で女性に『はーい!!』と返しつつ、私の耳元で呟いた。 「ああいう人、苦手ぇ~」 「激しく同意~…」 ちょっと落ち込んで黙り込む私を見て、シズクはあ!と手を叩いた。 「『なんか好き』ゲームしましょ!!」 「な、何それ?」 「『ちょっとしたことだけどなんか好き』な事を見つけたら逐一報告するゲームッス。例えば~」 「ポップコーン食べてる人の周りでヒョコヒョコしてる鳩とか…。」 「そういうのそういうの!あ、でも嘘はつかない。無理して合わそうとか、好きじゃないのに好きっていうとかは絶対ナシ。」 「…面白そうじゃねぇか!」 ・・・ 「ちっちゃい噴水」 「手すりの先のツヤッツヤの丸いとこ」 「作り物に紛れて岩にくっついてる本物のフジツボ」 「マキさん」 「マキさ…しれっと口説かない!!」 やっぱダメかと笑うシズクに、道行く人の視線は集中している。当然だ、高身長爽やかイケメンが楽しそうに笑っているのだから。おまけに今日のシズクには、ネズミ耳のカチューシャも付いているのだから。人々の熱い視線を勘違いし、シズクは言った。 「あのー…俺、変じゃないっすか?」 「全然…むしろ良いよ、いつもより。うん。」 「良かった…マキさんの見てるドラマ水槽から見て、人の自然な振る舞いとか勉強してたんっすよ。」 「え、そうなんだ!?」 そういえばシズクの所作は、主役の俳優となんとなく似ている気もする。っていうかドラマにはきわどいシーンも結構あったが…。 やや悶々としながら歩いていると、ふいに開けた場所に出た。 「ここ絶妙に人いませんねー」 「土日のパークにこんな人いない場所あるなんて…」 「こういう場所って…」 「「なんか好き!!!!」」 我々はあはは!!と笑い合う。 「なんだろうこの謎の優越感、人いないだけなのに」 「別にここに何があるわけでもないんですけど笑」 「それ笑」 散々笑いあってから、シズクはふいに黙り込む。 「あのー…ちょっとそこ、座ってもいいすか?」 「あ、しんどくなってきた?」 近くのベンチに腰掛けると、確かにシズクの顔色は良くない。 「…楽しくて自覚なかったけど、ちょっとHP残り少ないみたいで…。人の姿保ってられるのも、ちょっと危ないかも…。」 「え!?大丈夫?!」 「最初に乗った上下運動系のアレが、ボディブローのようにじわじわと…」 「フリーフォールタイプのアレ!?苦手な人は苦手なやつだもんな…」 こくりと頷くシズクの顔色はどんどん青ざめていく。 「…早く帰るよ!」 ぐったりしたシズクに肩を貸し、私は歩き始めた。どうにか電車を乗り継ぎマンションまでの道を歩いていると、シズクがぼそっと呟く。 「…俺みたいな人外、嫌ですか?」 「え、急になんで…」 シズクはぎゅっと唇を噛み締めた。 「俺人外だから、いつこんな風になっちゃうかわかんないし…俺がマキさんだったらどう感じるかなって思うと…」 私はばん!とシズクの背を叩く。 「人外だから嫌いになんてなるわけないじゃん!シズクはシズク!!」 「…」 肩に回された手にぎゅっと力が入る。 どうにか部屋にたどり着き、シズクを水槽に戻らせると、どっと疲れが押し寄せてきた。私も私で、結構疲れてたのかもしれない… でも、こんなにいっぱい誰かと笑ったの、久しぶりだったな…。 ・・・ 次の日の朝。 「出直させてください!!」 朝顔を合わせるなり、シズクは全力で土下座をキメる。 「なんっ…ど、どうした!」 「俺もうちょっと精神力つけます!!そしたら…もっかいデートして下さい!!」 私はその真剣さに思わず吹き出した。 「デート云々は置いといて…確かに急に魚になっちゃわないよう、鍛えていかねばだな!」 「はい!そしたらデートして下さい!」 「う…鍛えてから考えような?」 「今からデートしませんか!!」 「き、君はとりあえず人の話を聞こう!」 『デート』となると途端に緊張してしまうが、シズクと出かけるのは控えめに言って…ものすごく楽しかったのは事実だ。 密かに私は、シズクが強くなるのを待とうと思った。
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