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みるみる床は杜若で埋まり、私は花の上に這い出して振り仰いだ。
激しい雨のように杜若が降りそそぐ。
空は青紫の色でいっぱいだった。
私は降り積もる杜若を、山のように登っていく。出口までもう少しということろで、ずぶずぶと足元が崩れだした。
床に穴でも空いたように、杜若が吸い込まれて行く。天井は遠のく。
さと子さんとノアさんはそれでも、手を休めることなく杜若を投げ込み続けている。
無理だ、間に合わない。
絶望に襲われた時、左腕がばちんと爆発したような音をたててはじかれた。
ぽんぽんと猫ぐらいの大きなカエルたちが飛び交う。数珠のカエル?
カエルたちは手足をびょーんと伸ばすと、お互いしっかり手足を掴み合い、一枚の蓋のようになった。びたんと音をたてて、床に空いた穴をふさぐ。
おかげで再び杜若の山ができはじめた。
いまのうちだ。
私は四つん這いになって、必死に山を駆け登る。出口までもう少し。
『手を』
さと子さんが伸ばした手を掴みかけた瞬間、ぶるぶると山が震え、足元が崩れた。カエルたちが杜若の重みに耐えきれなかったのだ。
『つかんで』
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