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ノアさんが太い紐のようなものを投げ込む。
私はそれに必死にしがみついた。
紐の先っぽには透明の硬い玉がついている。青紫の花が描かれたトンボ玉だ。
遥時さんに作ってあげた巾着袋の紐につけたのと、同じものだった。
ここは麻袋ではなく、巾着袋のなかなんだ。
私はトンボ玉に足をひっかけて、よじ登りはじめた。
穴の縁からさと子さんとノアさんが見守っている。
あともう少し。
手が届く、というところで誰かが私の足を掴んだ。
見なくてもわかる。久士さんだ。
下を見てはいけない。
腕の力だけで紐を登ろうとするけれど、ぴくりとも体が動かない。
もう力も尽きて、紐にしがみついているだけで精一杯だった。
ここまでか。
観念して目を閉じた時、誰かが私の両手をぐっと掴んだ。
『安哉子さん、目を開けて。諦めちゃだめだ』
遥時さん。
目を開くと、光の穴がぱっと広がって、すべてを消し去った。足を掴んでいたつめたい手の感触も。
ゆっくりと光がおさまっていくと、私の両手を握って見下ろしている遥時さんと目が合った。
私は布団の上に寝かされていた。
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