杜若家の(霊的)お嬢さま

216/238
前へ
/238ページ
次へ
 ノアさんが太い紐のようなものを投げ込む。  私はそれに必死にしがみついた。  紐の先っぽには透明の硬い玉がついている。青紫の花が描かれたトンボ玉だ。  遥時さんに作ってあげた巾着袋の紐につけたのと、同じものだった。  ここは麻袋ではなく、巾着袋のなかなんだ。  私はトンボ玉に足をひっかけて、よじ登りはじめた。  穴の縁からさと子さんとノアさんが見守っている。  あともう少し。  手が届く、というところで誰かが私の足を掴んだ。  見なくてもわかる。久士さんだ。  下を見てはいけない。  腕の力だけで紐を登ろうとするけれど、ぴくりとも体が動かない。  もう力も尽きて、紐にしがみついているだけで精一杯だった。  ここまでか。  観念して目を閉じた時、誰かが私の両手をぐっと掴んだ。 『安哉子さん、目を開けて。諦めちゃだめだ』  遥時さん。  目を開くと、光の穴がぱっと広がって、すべてを消し去った。足を掴んでいたつめたい手の感触も。  ゆっくりと光がおさまっていくと、私の両手を握って見下ろしている遥時さんと目が合った。  私は布団の上に寝かされていた。
/238ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加