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王子さまと恋に落ちて始まる物語が、必ずしも幸せなストーリーを確約されているとは限らないらしい。
𓂃 𓈒𓏸໒꒱
「うぅ……私は近々振られるんだ、絶対別れ話持ち掛けられるんだ、もう終わりだぁあ!」
華の金曜日。本当は幸せいっぱいになるはずだった金曜日。私は居酒屋の個室にて、人目もはばからず盛大な愚痴を友人相手に吐き出していた。
「へえ、朗報だね」
しかし、ビール片手の宝良ちゃんは、開始15分足らずで既に興ざめのご様子。
「悲報だよ!朗報じゃないよ!振られる理由も分かってるの」
「うわぁ、詳細なんか聞いてもないのに勝手に語り始めちゃったよ……」
宝良ちゃんには申し訳ないけれど、残念ながら、今日の私と飲む、イコール、私の鬱憤の捌け口になる、という選択肢しか用意されていない。
「ちょっとしたハプニングだったんだ。連絡するつもり無かったんだ。でも久住さんの出張先が大雨だってニュース見掛けて、雨具持っていったかな?必要なら私が届けたいな、って思って、電話しちゃった。あわよくば、ひとめだけでも会えればいいなって。でも、“出張中にLINEも電話もDMも一切するな”って散々言われたのに私が破っちゃったの。だから分かってるの」
「待って。つかなにその制約。笑えるんだけど」
宝良ちゃんがレモンサワーを煽る。私もカルピスサワーのグラスを傾ける。
ガキが好きそうなの飲んでるね、と笑われて以降、子供じゃない事を知らしめるように私はずっと同じものを飲んでいる。ここに久住さんはいないのに。
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