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「あるでしょ。前回は何で泣き言言ったかおぼえてる?」
宝良ちゃんが詰め寄る。
「なんだったっけ?」
私は、思考回路を緩めてとぼける。宝良ちゃんの目から、1ミリも手を緩めない、そんな意志を感じ取り身構える。
「LINEの画面が見えて、その人誰ですかって聞いたら、めんどくさ、て言われてホテルから追い出されたって言わなかった?」
「そんなことあったかな〜」
「その前は、女と路上ハグ現場を目撃して次の日寝込んでた」
「あれはね、その人を介抱していただけらしいから気にしてないよ!」
「さらに前は、居酒屋で彼氏の合コンらしき現場に出くわした」
「そうだったかな〜……覚えてないや!」
「あとは……」
つらつらと出てくる過去の私の泣き言に、現在の私はすべて惚ける。
ちなみに覚えていないなんて嘘だ。残念なことに、仔細なことまで全て覚えている。久住さんとのやりとりを忘れるなんて由々しきことだ。
順に説明をすれば、ホテルから追い出されたのではなく、めんどい、を肌で感じとった私はいたたまれなくなって、大学の課題を言い訳に自主的に退散したのだ。
路上ハグを見て寝込んだ話も本当だ。そして合コンは会社の飲み会だって、居酒屋内で呼び出され、その場で説明された。真偽は不明である。
そんな私を見て、宝良ちゃんは呆れる。
「そもそも恋人に対する扱いじゃないのよ」
「久住さんの性格上仕方ないんだよー!」
完全に解釈違いである。水掛け論に時間を費やす趣味はない。さらに言えば、この三年、ずっと同じことで言及されている。
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