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響くんの言葉に首を傾げた。
久住さんが出張先の思い出を渡したい相手……ということだ。
「……誰か」
「誰だろうね」
「会社の人かな」
思いのままに言うと、響くんはまるでコントのようにガクッと肩を落とした。
「あー、うん。だよね。もうひとつ食べる?」
「あと二つ食べる」
「全部食べていいよ」
改めて見るとお洒落な缶だ。久住さんセレクトと言うだけで私の目はフィルターがかかる。響くんにあとで、缶だけ貰えるか聞いてみよう。
……それにしても。もし私がお土産を渡されたら『いいんですか!?ありがとうございます!』って、受け取ると思うから……久住さんに遠慮をする' 誰か'って、誰だろう。
「今頃何してるんだろうね?」
意地悪な笑顔、再来。
「……響くん、久住さんに何聞いたの?」
「女に会いに行くって聞いた」
「……え、」
──……ばくん。
心臓が嫌な音を鳴らした。ドッドッと一気に心音が高くなり、私の中の感情が死にゆく心地がした。
微笑む響くん。青ざめる私。
それとほぼ同時に。──ピンポン、と、インターフォンが鳴った。お姉ちゃんが「出るね」と、視界の端で立ち上がったのが見えた。
視界がゆらゆらと揺れる。何を言うべきか、選択肢がいくつも流れてゆく。
何してもいい、私は、彼女。
選ばれるはずもない、彼女。
「──……羽仁、」
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