ささやいて、ハニー

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何処を掴んでいいかわからずに、久住さんの肩から手を回し胸の前でクロスさせた。それを確認した久住さんがゆっくりと立ち上がった。下腹部に浮遊感が襲う。 「わ!たかーい!」 いつもと視点が違う。これがわたしが勝ち取った幸せの高さだ。 ヒールの高い靴を履いてもこの目線は得られなくて、初めての高さに感動してしまう。 「いや、暴れんなよ。危ない」 「高いですね!すごいです!」 「何がすごいんだよ」 「久住さんの視点の高さに感動してます!」 「酔っぱらいは感動のハードルが低すぎるな」 「私、酔ってませんよ?」 強がると、久住さんは「あっそ」と言ってゆっくりと歩き始めた。「煙草吸いたい」と言うので「火、お付けしましょうか!」とすぐさま言えば「歩き煙草だめっしょ」と、断られた。 たとえば、誰もいない、車も通らない夜の横断歩道でも久住さんは赤信号できちんと止まる。 当たり前のことを当たり前にできる人は素敵だと思う。 イコール、今日も久住さんは素敵だという結論に至る。
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