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小学生の頃、運動が苦手だった。
『走り方がぶりっ子』
走ることさえもれなくからかいの対象になっていた。だから、50メートル走は嫌いだった。
「(久住さんの背中、あったかい)」
間違いなく、この50メートルは私史上最高に幸福な50メートルへ変化する。
「久住さん、めんどくさいこと聞いていいですか?」
「駄目」
「響くんが、久住さんの職場は意外とブラックだって話してました。本当ですか?」
「さあ。普通じゃないの」
「残業、多いんですか?」
「羽仁が気にすることじゃねえよ」
「……今日は、気にしたくなる日です」
「へえ。じゃあずっと気にしてなよ」
優しさタイムはもう終わったらしい。
そんなことを言われたら、四六時中ずっと気にしちゃう。
湧き出るように溢れ出る疑問っていうのは、ドリンクバーみたいに、ボタンを押したら私という器の中に解答が注がれ無いかなって考えちゃう。
そして、解決に導かれなかったこのモヤモヤは、久住さんを思うことでしか解消しない。
私の恋愛において生じる様々な不都合の原因は、全て久住さんである。
「久住さん」
「次はなに」
「キスしたくなりました」
「家着いてからな」
「今がいいです。してくれないと、酔っぱらいは暴れます」
酔いで勢いづいた甘え、そのパワーが久住さんに果たして効果はあるのか、私は分からない。
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