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目の前にある、久住さんの神々しいそのうなじに額を寄せた。大きなため息が聞こえて、希望の灯火が消えたことを理解する。
「五秒な」
久住さんによって摘まれた希望が再燃する。しかも、五秒もくれるなんて、久住さんは神様の生まれ変わりだろうか。最早ラノベの主人公である。じゃあ、ヒロインは私?
ラノベじゃなくても、久住さんの物語のヒロインは私であってほしい。そう思うのは傲慢だろうか。
久住さんは立ち止まるとキスしやすいように私を一度持ち上げた。久住さんとの距離が近くなると、久住さんはその目を閉ざした。
そっと近付き、くちびるを重ねた。
「(1、2……)」
5、までしっかり数えると、おなじタイミングで顔を離した。幸せだ。私が今死ぬなら幸福の過剰摂取による心臓発作である。
「久住さん、いい匂いします」
「そ」
「久住さん、好きです」
「知ってる」
久住さんが歩くのを再開させた。だから私は久住さんの体に抱きつく。もう50メートルなんてとっくに過ぎているけれど、私も久住さんも何も言わなかった。
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