ささやいて、ハニー

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「ごめんなさい、重いですよね」 変わりに、とっても軽い謝罪を送ると「じゃあ言うなよ」と、久住さんは平坦な声で答えた。でも、降りろとは言わない。 細く見えて案外着痩せするタイプだって私は知っている。 結局、家に帰りつくまでおんぶされたままで、人気のない夜の住宅街をしばらく歩くと、私のマンションが見えた。 「じゃあな。酔っぱらいはさっさと寝な」 久住さんは私を下ろすとサヨナラをする。傍若無人である。まだ一緒にいれると思っていたのに。 「久住さん……寄らないんですか?」 「寄らない」 あっさりと否定されて、すん……と笑顔が消えた。 家に着いたらキスするって言ってくれたけれど……さっきのキスでチャラになったらしい。 ──て、今日の私は、そんなことで納得しない、めんどくさくて聞き分けの悪い枢木羽仁なのだ。 「一緒にいたいです」 久住さんの裾をくんと引いて、自分調べによる、可愛い角度で見上げた。 「居たでしょ、今まで」 けれども、さっきまで同じ目線だった、久住さんには全く効かない。
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