ときめいて、ハニー

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「(よし、あの角をまがって最初に出会う人が女の人だったら、お風呂あがって、久住さんに連絡する。男の人だったらお兄ちゃんかお姉ちゃんに連絡する)」 ご機嫌な私の脳みそは、ある賭けを提案した。 そうと決まれば、善は急げだ。私の背中をブーツの音が早急に追いかける。 しかしながら思いつくのが遅すぎて、誰にも会わないままマンションにたどり着いてしまった。馬鹿だ。飲みすぎたせいで、思考回路の栓がゆるゆるになっているらしい。 駄々をこねるのはやめて、現実を見なさい、と言われているようだった。 「(諦めて、連絡を待とう……)」 別れ話になってもなんとか話し合いの機会をもらって、私をプレゼンしようじゃないか。 そんな意気込みを抱いてエレベーターで五階に上がった。家の鍵を開けてドアを押した。電気が付いていた。どうやら家を出る前に消し忘れたらしい。 ああ、来月の電気代……と、軽くしっかりと落ち込み施錠する。 背後で物音が聞こえた。例によってのろまな思考は、ようやく異変に気付く。
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