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第23話 悩める九尾の妖狐
一樺にアレコレ質問され答えられず店の外に逃げる九十九。
「ちょっとまって! 九十九さーん?」
「長く生きていると、隠したい、消したい過去が色々あるからな―。それでも死ねない妖だ。どれも聞かれたくないことだったんだニャー」
美少年シャルルがため息まじりに呟く。
「わたしったら九十九さんの気持ちも考えず、刑事みたいに無理矢理、尋問して悪いことしたな……」
一樺は矢継ぎ早に聞いたことをひどく後悔した。
「いいや、一樺はぜんぜん悪くないよ。もうそろそろ本気で向き合わなくちゃいけない時期に来ていたんだ。遅いくらいだ。何百年も狭間で引きこもってきたから」
「何百年⁉」
カランコロン
店内の扉が開く音がして、シャルルと一樺が振り向いた。お客さまだった。
「持ち主探します。アンティークショップ九十九にいらっしゃいませ~」
「……⁉」
***
「やっぱり俺は結婚に向いてないのかも……」
九十九は狭間三丁目まで逃げて公園のベンチで座った。この前のお祭りの露店を出した場所だ。森のような公園の木々に隠れるように丸くて透明な木霊たちが心配そうに九十九を見守っていた。
(謎だらけでも結婚できるなんて、虫が良すぎるか……)
一樺にすべて話したら嫌われてしまう。だって俺、罪を犯したからだ。犯罪者。シクシク。涙目の九十九。
『当たって砕けろ、ですぞ』
べしゃり着物くんの言葉を思い出し、少しだけ思い直す。ここで諦めたらずっとこれから先も引きこもったままだ。いくら逃げても鵺のような妖怪に憎まれ、また狙われるだけだ。店に戻って、今までの過去をまるまるぜんぶ告白しよう。
カランコロン
九十九は意を決して店に戻り、店の扉を開ける。
「!」
誰かが来た気配がする。しかも今までの客人じゃない。よくない妖の匂いだ。
九十九は気持ちを落ち着かせようと髪をかき上げる。
『九十九さ―ん‼』
商談用のテーブルに置かれたサラ人形が叫ぶ。
「サラ、どうした? シャルルも一樺もいないぞ」
九十九がサラ人形に駆け寄る。
『さっき、男の人が入ってきて、一人と一匹はあの場所まで連れていくって言い残して去ったワ』
「あの場所……?」
いやな予感がした。
『人間界にある消滅した村ですってヨ』
「!」
九十九は苦悶の表情になる。
「そうか……わかった。一樺とシャルルは必ず取り返しに行ってくる。心配するな」
烏帽子をかぶり金糸の刺繍入り狩衣のお祓いスタイルに狐のお面をかぶり笏をもつ、狐のようにぴょんぴょん跳ねながら獣道を駆ける。
やって来たのは山奥の人気のない寂れた場所。途端に九十九の足取りが重くなる。忘れられない忌々しい場所―。二度と来たくなかったというのに……。
湿った風が吹いてくる。もうすぐ雨が降るだろう。
かつてはここは栄えた村だった。今は心霊スポットとして有名な場所だ。
(……息が苦しい。いやだ、思い出したくない)
「はぁ、はぁ……」
家屋も、住んでいた形跡が木々に覆われ、あとかたもなく消え去り、荒れ果てた里山の静かな場所だ。
村だった場所付近から人影が現れた。
「久しぶりだね。九十九。この場所に来るのは何年ぶり? 五百年ぶりかな?」
「お前……妖狸か」
「そうだ」
「九十九さん」
「来ちゃだめだよ」
猫に戻ったシャルルと一樺が手足を縛られ、妖狸のうしろにいた。
「お前、ずっと狭間に隠れていたそうだな。我は何百年たってもお前を許すことができない。それがなんであれ。お前のせいで、村が消滅した。妖だって……」
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