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海外出張に行くことになり、スーツケースをレンタルした。
特にトラブルもなく仕事は終わり、明日は帰国という日の夜中、何かを引っ掻くような音で目が覚めた。
カリカリ、カリカリ…ホテルの室内に響く謎の音。それの出元を探して部屋を見て回っていた時、異音がスーツケース内から聞こえてくることに気づいた。
勝手に動き出すような品は入れてないし、当然だが、生き物の類などを入れた覚えもない。
それでも確かにスーツケースの中から音が聞こえる。
いったい何の音なのか。気になり、ケースを開けようとした時、か細い声が中から聞こえた。
「やっと開けてくれるんだ…」
当然だが、それを聞いてスーツケースを開けることは俺にはできなかった。
そのまま眠れぬ夜を過ごし、予定通り、朝一の飛行機に乗るため空港へ向かう。
税関では当然のように荷物検査があり、いったい何が出てくることかとひやひやしたが、中に入っていたのは俺が最初に詰めた荷物だけだった。
この時の俺にとって幸いだったのは、スーツケースを借りたはいいが、思いのほか荷物が少なく、帰国時、荷物がケースに入りきらなかった場合を想定して持っていった予備のバッグに総ての荷物を入れられたことだろう。
借り物なので置いていく訳にはいかないから、空のスーツケースとバッグを機内持ち込み外の品にすることで、俺は家でスーツケースを開けることの回避に成功した。
帰国後は、ただちにレンタルショップにケースを返しに行き、この件を話したが、店員はこのスーツケースを仕入れたいきさつはまったく知らないようで、俺も、あの夜怖い思いをした以外の被害はなかったから、普通にケースを返却してこの件は終了した。
あれ以来、俺はそこのレンタルショップには足を踏み入れてないし、今後、スーツケースは絶対借りないと心に誓ったけれど、この先あの店であのスーツケースを借りてしまった人が、俺よりさらに恐ろしい目に遭わないか、それがかなり心配だ。
スーツケース…完
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